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2016年4月 1日 (金)

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ホビージャパンエクストラ 2016 Spring 発売中
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レビュー記事を4本、4ページのコラムを一本、書きました。
だけど、「僕の記事さえ読んでくれればいい」などとは言いません。ぜんぶ面白いです。枕元に置いて、ずーっと読んでいて、後半のページに「缶スプレー2本のみで、バイクのプラモを組む」「もちろん改造なんてしない」記事がカラーで載っているを発見し、そのフットワークの軽さにしびれます。
かと思うと、松本州平さんとMAX渡辺さんが飲みあってる渋い居酒屋の写真なんかがあって、「俺たちの未来は暗くないぞ」って気持ちにもさせられます。


そもそも、この本の構想を聞かされたのは、昨年の暖かいころでした。都内の居酒屋で、編集のT氏はテーブルいっぱいに山登り用品の雑誌やら、プラモデルとは一切関係ない資料ばかり、ドカッと広げた。ようするに、山登り用品を紹介した雑誌は、どんな素敵な優れたグッズであるか、どれだけ美しい製品であるか、それしか説明していない。「どうやったら上手に山に登れるようになるのか?」なんて説明がなくても、山が好きな人にとっては楽しいはず。それに相当するような雑誌が、プラモデルの世界にはないんじゃないの?
ようするに、「上手に作ろう」「細かく、丁寧に作ろう」って志向性しかない。「上手に作れないんだけど、プラモデルは好きなんだよね」「作る時間はないけど、買うだけで嬉しいよね」「箱を開けて、あれこれ考えるだけで楽しいよね」ってだけの、ライトな人たちのほうを向いていない。

T氏がそういうプレゼンをしたわけではないような気がするけど、僕は、そう受けとったんです。だって、スニーカーの雑誌を途中から開いても、そのスニーカーがいかに魅力的であるか、どんな価値があるのか、熱烈に書いてあるもの。で、実際にスニーカーを履かなくても「なるほど、スニーカーってのも面白いんだな」って、僕のような素人にも分かるもの。世界の彩りが、以前よりも、ずっと鮮やかに感じられるはず。
そういう、自分たちのフィールドの外へ届くような、自分たちのフィールドの外から文脈をもってくるような、オープンな、正直なことを為したい。雑誌という道具を使って。――僕は、そう受けとった。その夜から、僕の心の真ん中に「面白い/面白くない」の指標が、スラリと立ち現れたような気がする。その、まっさらな指標にしたがって仕事しよう、生きていこう。そう決めた夜だったんです。


その時点で、今回の「ホビージャパンエクストラ」と、根本的には変わらない企画案ができていた。実は、そこへたどりつくまで、何度も何度も、台割を書き直したんだそうです。「本当に面白いのか?」「本当に喜んでもらえるのか?」「ちゃんと世の中に必要なものになり得るか?」という真摯な問いかけの繰り返しであったと、僕は想像する。

ところが、いったん、この企画は白紙になるんです。出版社を変えて「ホビージャパンエクストラ」の特集として復活するのに、半年ぐらいかかったと思う。今年に入り、僕が打ち合わせのために再びT氏と会ったときには、もう写真も撮ってあって、最初の企画案そのままの誌面がデザインされていて――白紙にされて「無期延期」みたいに言われてたのに、へこたれずに構想どおりに作っていたわけですよ。ちゃんと若い、新しいスタッフも投入して。
「いやあ、これ作るの、大変……」と、T氏は苦笑した。「誰か、代わりにやってくんないかなー」。つまり、この本で初めて試みられているかに見えることは、実はプラモデルを好きな人たちはみんな「分かっていたこと」のはずなんです。誰にでも、模型はホメられます。言葉に落とし込んでいないだけで、誰もが模型屋の店頭で、自分の部屋で、当たり前のようにときめきを感じているはず。

だけど、その「当たり前」を、外部に向けて発信する人間がいなかった。
乱暴な言い方をすると、「プラモデルの魅力なんて、プラモデルを買って作っている人間さえ知っていればいい」「いちばん苦労して作った人が、いちばんプラモデルの魅力を知っている」――そんな幻想に、とらわれすぎていたのではないだろうか。
僕がモデグラ誌で『組まず語り症候群』を始めた当初も、「作れもしないくせに」と笑われたものだった。もちろん、エアブラシで色を塗って、時間をかけて工作しなければ、決して見えてこない世界も、価値もある。だけど「プラモって、色を塗らないとダメなんでしょ?」……それは、誤りだ。店にプラモデルが置いてある。高くて買えない。ただ、指をくわえて眺めている――その時間さえ、無駄ではないのだ。なぜ、その模型をほしいのか。どんな値打ちがあるのか、ちゃんと自分で分かっているでしょ? その豊かさをシェアしないなんて、えらい損失ですよ。


僕がライターになったのはなりゆきだし、何の専門家にもなれなかったので、「ライターにでもなるしかなかった」落ちこぼれ人間です。二軍というか補欠というか、そんな気分でいます。「絶対に、シメキリだけは守る」ってだけが取り柄の。

だけど、「プラモデルの、当たり前の楽しみ方を雑誌という形で伝えたい」真摯なオーダーには、まっさらな誠意をもって答えたい。「俺は優れた審美眼をもっているから、俺に学べ」なんて露ほども思ってない、「同じプラモを買っても、こいつはこう受けとったのか」って、差異を見つけてくれたら嬉しいです。
あるマンガで見つけた「多様性を失うと、外乱に対して弱くなる」という言葉が好きです。あなたと私が違うこと、差異を認め合うことが、文化の強さになるのです。

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コメント

本屋で表紙に目が止まったものの、手に取らずにその場を後にした夜に、この記事を読んでしまい、死ぬほど後悔しました(笑)。

翌日買いました。
素晴らしい特集でした。紹介されているキットが全部欲しくなります。

投稿: 印度総督 | 2016年4月 3日 (日) 23時12分

■印度総督さま
いや、よかったです。僕も、以前よりずっと、プラモデルを好きになれました。

マニア向けの本だと、「濃い」という価値意識がありますけど、その対極にたどりつけたような気がします。「薄い」でも「軽い」でもいいんですけど、濃密で排他的なマニア同士の語らいから、うまく抜け出ることができたんじゃないでしょうか。

投稿: 廣田恵介 | 2016年4月 4日 (月) 10時07分

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