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2016年3月12日 (土)

■0312■

レンタルで、『悪の法則』。タイトルも確かめず、なんとなく手に取ったのだが、リドリー・スコットの監督作だった。
Df04241_large見たことを後悔させられる映画。ほぼラスト近く、徹底的に追いつめられた主人公が告げられるように、僕らは常に分岐点に立たされている。僕が見ようと見まいと、この映画は以前からあったし、これからもあり続ける。僕が完全に忘れ去っても、この映画が消え去るわけではない。誰かが、かならずどこかで見ている。
明け方、悪夢にうなされるぐらい、ちょっとイヤな映画だ。

猟奇的なシーンが多いので、その手の映像がキライな人は要注意だが、本当に見たくない映像は、実はセリフで語られるだけで、実際には出てこない。が、どれほど見たくない映像なのか、いやでも想像させられる仕組みになっている。考えうるかぎりの最悪を、いやでも考えさせられる。想像力という名の筋肉をきたえるためには、こういう経験も必要なのだろう。


リドリー・スコットは、やはり境界を越えていく人なのだと思う。この映画では、麻薬カルテルに狙われた主人公が、メキシコの小さな町へ逃走する。そこでは、言葉は通じない。そもそも主人公は、そこがどこにある町なのかも知らない。
ようするに、『エイリアン』のように、人間とは違うルールで閉じられた世界へ、足を踏み入れてしまう。物理的な越境というより、異質なルールの中へ組み入れられてしまうわけだ。その怖れと恍惚を描き出そうとするとき、リドリー・スコットという人は、真骨頂を発揮する。

麻薬カルテルが、麻薬の運搬に使われるトラックを偽装するシーンが出てくる。銃撃戦で空いた弾痕をふさぎ、塗装しなおす。そのようにして別のトラックへ生まれ変わった、異世界へ踏みこんだトラックが、また別の麻薬取引に使われる。
トラックの中には、麻薬を運ぶついでに、ドラム缶に詰められた死体も積まれている。運転手が、「このまま国境をこえて、またトラックが偽装されて、えんえんと死体が世界を廻りつづけるのかも知れない」と話す。つまり、違うルールの間をぐるぐると廻りつづける。仏教の無間地獄には、何億、何兆、何京といった気の遠くなるような時間の単位が高層ビルのように積み重ねられているが、その果てしのない恍惚感に似ている。


「恍惚」と書いたが、あまりに限りない絶望と恐怖は、ある種の、美しさをまとうような気がする。いや、あまりに酷すぎるので、もはや「美しい」ぐらいしか表現のしようがない。「美しい」とでも呼ばねば救われない、そういう世界、精神の領域があるのではないだろうか。

「映画=作りごと」とは、僕は考えない。作りごとだから、人間が作ったからこそ、真実が宿ってしまう。この映画の中の最悪は、スナッフ・フィルムの制作過程に触れるシーンだ。その単語の意味を知ったら最後、もはや無関係ではいられない。
この映画を見終えたところで、この映画から想像させられたイメージだけは、僕の頭の中に残留する。何回トラックを偽装しようとも、そのトラックについた傷が消滅するわけではないのだ。国境をめぐりつづける死体のように、僕は映画を見てきた。これからも見ていく。


今夜金曜ロードSHOW「スター・ウォーズ」ってエピソード4から始まるってなにそれみんな知ってるの?(
今夜金曜ロードSHOW「スター・ウォーズ」エピソード4の次に1を観たらこんな感想になりました(

たきりょうこさんによる、イラスト入りのレビュー記事。どちらも、すばらしい考察。エピソード4とエピソード1の比較イラストにも膝を打ったが、以下は、エピソード4を見た感想からの引用。

“レイア姫が拘束された後、開き直って設計図を交渉材料にせず「盗んでない」と無理のあるシラを切り通したのは
盗みがバレたら元老院に怒られるからだと思われます。

中盤で帝国軍は惑星一つを消し飛ばす強攻策を取りますが、この時点では元老院は解散して力を失っています。
元老院を解散させたのは帝国軍側の皇帝なので、さっさとやっとけよって感じですが
帝国軍の中には「独裁したいけど国民の支持も欲しい派」と「めんどくさいから武力で恐怖政治しよう派」がいて
帝国軍内の足の引っ張り合いから、元老院解散が遅れたようです。

レイア姫は盗んだ設計図をデータとして送信しちゃえば良さそうなものですが、
通信網は全て帝国軍側に検閲されてて、相手側に届く前に握りつぶされると考えれば納得できます。”

とてもよく見ている。エピソード4を見直したら、確かにレイア姫は、元老院の中で反乱同盟支持派が増えることを期待している。デススターの建造と破壊の裏には、ちゃんと政治的駆け引きがあったのです。その工夫を「細かいことはいいから、スカッとしようぜ」と切り捨てるような人間には、僕はなりたくないです。

(C)2013 Twentieth Century Fox.

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