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2016年3月 2日 (水)

■0302■

レンタルで、『アントマン』、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』、黒澤明の『白痴』、『どん底』。
Main_large『イミテーション・ゲーム』は、第二次大戦中、ドイツ軍の使っていた暗号機“エニグマ”を解読するために奮闘した数学者、アラン・チューリングの伝記的映画。チューリングは周囲の無理解にまけず、解読器“クリストファー”を開発し、ふとしたヒントからエニグマの解読に成功する。それまでは恋あり友情ありのステロタイプだった映画は、一気に複雑さを増していく。
まず、敵にも味方にもエニグマ解読成功の事実を隠すため、民間人に犠牲が出ることもやむなしと、チューリングは判断する。その少し前、暗号解読成功で映画をハッピーエンドにすることも出来たはずなのだが、映画は、チューリングの同性愛を新たな秘密として掘り下げていく。同時に、同性愛者を罪人として処刑していたイギリスの黒い歴史が浮かび上がってくる趣向だ。


この『イミテーション・ゲーム』の直前に、『どん底』を見たのだが、娯楽色の強い欧米映3画の合間に黒澤明を挟んでいくと、ちょっと冷静になれるようだ。
『どん底』はゴーリキーの戯曲を江戸時代の日本を舞台に映画化した作品で、『イミテーション・ゲーム』のように、明快な起承転結があるわけではない。廃屋のような長屋に住む者たちが、えんえんと先の進まない話をしているばかりで、「まったく何も起きない」と言ってもいい。
にも関わらず、映画が中盤をこえた辺りには、もう目が離せなくなっている。

たとえば、長屋の奥で何人かが博打をしている。その手前では、将棋を指している者が2人。さらに手前にはお遍路さんの老人、病気で寝込んでいる老婆が並んでいる。
カメラは、将棋を指している2人を手前に、奥に博打打ちの面々を配置する。さらに両者の間に、アル中の男を置いて、彼が博打を眺めているのをやめ、将棋に興味を示す動きを、フィックスでとらえている。「博打」を撮っているのでもなければ、「将棋」を撮っているのでもない。そのどちらにも「参加してない男」にピントを合わせることで、「両方を同時に撮っている」のだ。まずは、その発想がカッコいい。

そのカットの前、博打を打っている者たちは、景気よく歌いはじめる。「テレツクテレツク」「スッテンテン」といった具合に、テンポよく歌うのだが、歌っている顔をアップで抜いて、ミュージカルのように繋いでいる。この編集が、おそろしく巧みで、つい何度も見てしまう。それほどまでに美しい。この一連のシーンだけでも、一見の価値がある。

そして、歌っている道楽者たちと、黙ったまま盤面を見つめている2人の対比が、フィックスの構図によって際立つ。
やがて、アル中男の動きを追うように、カメラは正反対に据えられ、お遍路の老人と寝ている老婆をとらえる――が、臥せっている老婆の姿は映らない。老人の顔がアップになり、あいかわらず盤面をにらんでいる2人の頭が奥に見える。「死ねば、そんなに苦しい思いをしなくてすむよ」と老婆を諭す、お遍路の老人。その奥で将棋を指していた男が「爺さん、なんてこと言うんだよ」と、ちょっとだけ顔をあげる。
その所作と構図が、あまりにもマッチしすぎて、シャープというか、息をのむほど「綺麗」なのである。何がどうしたわけでもないのに、セリフにも深い意味はないのに、戦慄する。


黒澤明の映画は、カットが切りかわり、構図が見えた瞬間、サッと何かを言い切ってしまっている場合が多い。その「何か」を、簡単には言い当てられないから、かえって世界中で研究対象になっているのだろう。「思わせぶりな構図」などではなく、確実に何かを言い切っている。セリフは、オマケのようなものだ。

僕には、黒澤の表現と『イミテーション・ゲーム』が、同じメディアとは思えない。どちらが上だという問題ではない。『イミテーション・ゲーム』でないと、2010年代の世界では通用しないことも分かる。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が、アカデミー賞で六冠に輝いた。あそこまで洗練された映画でも尚、「ドラマがない」=「セリフによる説明が少ない」=「主人公には過去やトラウマや葛藤がなければならない」と、文句をいう人がいる。

いや確かに、過去やトラウマや葛藤をセリフで説明して、面白い場合もある。だが、黒澤の映画を見ると、僕はたちまち真っ白な霧の中に引き戻されてしまうのである。

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