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2016年1月12日 (火)

■0112■

レンタルで、『幻の光』。是枝裕和監督の、20年前の長編デビュー作。
Maborosi_2江角マキコ、浅野忠信、内藤剛志……と、名の知られた俳優を使ってはいる。だが、彼らが出演しているとは、すぐには分からない。なぜなら、ほとんどが風景を主体にしたロングショットで、俳優の顔のわかるバストショットは、数えるほどしかないからだ。

ラストカットのひとつ前、窓から小さな港が見える。その港にへばりつくように、寂しい集落がある。そのカットの中では、何ひとつ動くものはない。完全なフィックス。内藤剛志演じる家の主が、子どもたちと遊ぶ声が、かすかに聞こえるだけだ。
そのショットには、時間のみが流れている。かすかに重たい映画全体を、その微動だにしないフィックスの絵が、どっしりと支えているように見える。

僕は、押井守監督の「映画をつきつめていくと、アクションだけが残る」という言葉が好きだ。それは「アクション映画というジャンルが残る」といった問題ではなく、「動き」だけが映画の本質である……という意味に、僕は解釈している。ある実験映像作家の「映画は、2コマあれば成立する」という言葉も、同じフィールドに属している。1コマなら写真だが、2コマならば、(たとえまったく同じ絵でも)そこからが先が映画なのだ。
そして、『幻の光』を見ていると、それらの言葉が、より錯綜して聞こえる。この映画に散見される、ピタリと静止したショットは、果たして沈滞しているのだろうか? 僕がそのショットを十秒見ていたとしたら、十秒間のあいだに「何も起きなかった」と断言できるだろうか?
そのような疑問から、実は「見る」行為が始まるような気がする。


『幻の光』で、もうひとつ。
浅野忠信が自転車を盗んできて、その自転車を江角マキコと二人で、公園で塗装しなおす。江角は「あ、おまわりさんや」と、フレームの外を見ながら言う。浅野が笑うので、それが冗談であると分かる。このとき、カットを切り替えて「おまわりさんがいない」ことを説明することも出来たはずだ。浅野がハッと視線を上げた直後、無人の公園を映せば、その2カットで「おまわりさんはいない」と、僕らは理解できる。
ところが、『幻の光』は、僕らの読解力に頼ろうとしない。おかまいなしに、江角が浅野をからかった、二人の親しさにだけカメラを向けつづける。しかし、「もしかすると、本当に、おまわりさんが通りかかったのではないか」「そのまま、おまわりさんは通りすぎてしまっただけなのではないか」という可能性は、映画に残りつづける。


映画では、誰かがフレームの外を見ながら「怪獣だ!」と叫べば、そこに怪獣がいることになる。そのような約束事を用いて、「怪獣のいる世界」を作り上げる。
この映画の前半で、浅野忠信は姿を消す。数少ないやりとりから推測すると、線路上で自殺したらしいと分かる。彼の遺体は、映画には出てこない。死ぬ瞬間の映像も出てこない。にも関わらず、僕らは「浅野の演じていた男は、死んでしまったのだ」と理解する。つまり、「彼は死んだことにしよう」と、映画と新たな約束をかわして、その先を見つづけることになる。「浅野は死んだらしいが、実は生きているのではないか」と疑問を残すようなら、そこから先を見ても、何も頭に入ってこないだろう。
江角マキコは、若い未亡人となり、赤ちゃんを連れたまま、やはり妻と死に別れた内藤剛志と再婚する。……と、簡単に書けてしまうのだが、それはセリフの断片からの推測にすぎない気がしてくる。僕らはよく「ストーリーがいい」「物語が感動的だ」と言いたがる。だが、「ストーリー」は、「映画の約束事」にしたがって、映像や音声の断片から、僕ら自身が構築したものにすぎない。たとえば、「内藤剛志が妻と死別していた」ことは、映画のラスト近く、江角が「なぜ、奥さんを死なせたの?」というセリフを発することで、初めて分かる。もし、そのセリフがカットされてしまったら、内藤の役柄は、よく分からないままだっただろう。
映画の「ストーリー」は、そこまで脆弱で曖昧。なぜなら、僕たちの読解力に頼っているからだ。にもかかわらず、映画の企画はプロットや脚本なくして始まらない。その矛盾を解き明かしていく行為こそが、映画づくりなのかも知れない(『もののけ姫』のメイキングで、宮崎駿監督が、映画の「ストーリー」を考えるのに「抽象的な図形」を使っていた姿を思い出す。)

George Lucas back to the Star Wars movies
ジョージ・ルーカスを、『スター・ウォーズ エピソード9』の監督にしよう!という趣旨の署名キャンペーンが、ブラジルから始まった。
署名したけど、今回の三部作以降も『スター・ウォーズ』シリーズは続くだろう。ルーカスフィルム買収したのは、ビジネスを半永久的に続けることが目的だったのだから。
ただ、人生の半分以上を『スター・ウォーズ』に捧げたルーカスへのラブレターにはなるんじゃない? だから、署名したんだ。

(C)TV MAN UNION,inc.

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