■サントリーニ島旅行記・6■
ホテルの朝食の時間は、今日はお婆ちゃんから赤ちゃんまで、にぎやかだ。「もうすぐタマゴ料理が出てくるわよ」と、お婆ちゃんが声をかけてくれる。
12時チェックアウトなので、イアの町をぐるっとひと回りする。
レセプションの女性は、「チェックアウトまで時間があるのだから、もっとゆっくりしていけばいいのに」と引きとめるが、なんとなく気持ちが急いていた。「いつ」とは言えないが、このまま無事には帰れないのではないか……という、妙な予感がしていた。
「エフハリスト・パラ・ポリ」と、ギリシャ語でお礼を言って、その場を辞した。
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13時ごろ、フィラに着いた。空港行きのバスまで、まだ時間がある。見落としたものがあるような気がして、新先史博物館に入ってしまう。スーツケースを持って入ったら、「床にキズがつく」と、怒られた。
空港には14時すぎについてしまったので、もっと早い時間のチケットに換えてもらった。
他のお客さんたちがチェック・インしようとして、次々に断られているので、「?」と思いつつ、カウンターへ行って、せめて荷物だけでも預けようとした。
すると、「あら、早い時間のチケットに換えたんですね」「まだ時間ありますから、どこかへ行かれては~? せっかくのバカンスでしょう」などとニヤニヤと話をはぐらかし、ぜんぜんチェック・インさせてくれない。まるで人をナメた態度だ。
掃除のオバチャンは、休んでいる旅客をどかせてまでモップがけしているし、サントリーニ空港の雰囲気は、良いとは言えない。
僕らは、今日は観光に来て遊んでいるかも知れないけれど、ちゃんと自分の仕事をもっているよ。あんたらと同じなんだよ!と怒鳴ってやりたくなった。
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アテネまでは一時間ほどのフライトなので、明るいうちに着くことができた。ホテルまでは地下鉄で行けると思ったのだが、駅の職員さんが地図を見て「これはバスで行くべきですね。バス乗り場は、向こうです」と教えてくれた。
バス停の名前が分からないので、タクシーを拾う。
タクシーの運転手のオジサンは無愛想だったが、いちど変な場所で高速を降りてしまい、ギリシャ語で「しまった、チクショー! 俺としたことが!」みたいな感じで、僕が横にいるのもかまわず大声で叫ぶので、ちょっと笑ってしまった。
そしてホテルに着くと、「31ユーロ」と言う。「31だね。ちょっと待ってね」と財布を開くと、「いや、やっぱり30ユーロ」「え?」「30でいい、30で!」と言ったあと、またギリシャ語で「あー、まったくドジ踏んじまったぜ!」とオーバージェスチャーで叫び、僕が30ユーロ渡すころには、すっかり笑顔になっていた。
こういう人は、どこか憎めない。
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ホテルは、ビジネス街にあるというが、目の前を高速道路が突っ切っている。
高速道路の両岸にガソリン・スタンドがあり、その中にハンバーガー・スタンドとコンビニがあるのだ。これで、ホテル内の高級レストランで食事をしなくてすむ。サンドイッチやらポテトチップやらビールやら、いろいろ買ってきて、さっさと食って、さっさと寝てしまう。
空港までは、なんと20ユーロ。昨日の30ユーロが高すぎたのだ。
……が、順調なのは、ここまでだった。
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アテネ発アブダビ行きの飛行機が、一時間も遅れるという。
不安になり、カウンターでチケットを見せると、新しいものと取り替えてくれた。その際、「荷物はどこで受け取りますか?」と聞かれた。僕はなぜか、「アブダビ」と答えていた。
アブダビで荷物を受け取ってしまったら、成田行きにトランスファーするのに、時間がかかってしまう。だが、40分ほど余裕がある。何とかなるんじゃないか、とそのときは思っていた。
おわびの印なのか、4.5ユーロまで売店で使えるカードまでもらった。
このときも、まだ良かった。頑張って走れば、今夜中に成田に向かえると信じていた。ところが、飛行機の到着は、さらに遅れた。
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アブダビまでは4時間ほどで、僕の乗る成田行きは22時05分発。
ところが、アブダビに着いたのは、22時08分。もちろん、成田行きの飛行機は飛び去ったあとだ。
僕はとりあえずバゲージ・ベルトで荷物を受け取り、アブダビ空港で呆然と立ち尽くした。すると、警備員が「どうしました?」と近づいてきて、事情を話すと、「分かりました。エティハド空港の社員と話してみてください」と、場所を案内された。
最初に寄ったところでは、「うちはエコノミーのお客様の相手はしません。ビジネスクラスのみです。お引取りください」と言われ、思わず自分のスーツケースを蹴飛ばし、アタッシュケースを、地面に叩きつけてしまった。
だが、アブダビ空港の人たちは親切で、向こうから「どうしたんですか?」と話しかけてくれる。その結果、僕はエティハド空港のオフィスで、次の飛行機に乗せてもらえることになった。
が、フライトは24時間後だという。「それまで、どうすればいいのですか?」「ここから先は、当社のスーパーバイザーと話してください。えーと、場所はですね……」と、メモ帳に、次の行き場所を書いてくれた。
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エティハド航空のチェック・イン・カウンターで、「乗れるはずの飛行機に乗れなかったんですが」と、同じ説明を繰り返した。スーパーバイザーの女性は、明晩のチケットとホテルのバウチャーを手渡し、「ホテルで朝食から夕食まで、ちゃんと出します。明日の夜、ホテルまで迎えに行きますから」。深いため息が出た。
同じ車に乗せられたのは、何人の家族だろう……アジア人だが、聞いたことのない言葉を話していた。もうひとりは、白人の女の子。とても若い子だ。かわいそうに。
僕らは、げっそりと疲れ果てた顔で、大きなホテルのレセプションに並んだ。丸々と太った白人の女の子が割り込んできたけど、もうどうでもいい。怒る気にもなれない。
アブダビの高級ホテルの客室にたどりついたときには、25時になっていた。
そのときの僕のメモ帳には、「怒るべきときに怒れない人間は、無力」と書かれている。(サントリーニ島旅行記・7へつづく)
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