■サントリーニ島旅行記・1■
僕の場合、決まった休みのないフリーランスなので、航空券の安い時期を狙って、海外に行くことができる。だいたい、「3~4月に一週間」というパターンが定着しつつある。
今回も12万円ほどで航空券がとれたので、サントリーニ島へ一週間の旅程を立てる。フィラとイアに滞在しないと話にならないので、フィラに三泊、イアに二泊。そして、なんとなく「ハズレ」を一箇所、入れておくと意外なことが起きるようなので、古代ティラへのバスツアーがあるというカマリという町に一泊。
航空会社はエティハド航空なので、成田→アブダビ→アテネ→サントリーニ島という経由で行く。最終日のトランスファーは一晩以上かかるので、アテネ空港の近くにホテルをとった。午前中をうまく使えば、アテネ市内を観光できるかも知れない。
(ただ、今回は仕事がたて込んでおり、事前の下調べが足りなかった。)
まあ、そんな感じで4月13日夜、いつものように成田空港でビールをやってから(僕はトイレが近いので、機内では飲まないようにしている)、飛行機に乗った。
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途中、アブダビ空港でコーヒーとサンドイッチが欲しくなり、何ユーロかアブダビの通貨(ディルハムとフィルス)に換えてもらった。ユーロのままでも使えるが、お釣りがアブダビ・マネーになってしまうのだ。そして、このときに余ってしまったアブダビ・マネーが、旅の最後のドラマで思いがけない役割を果たす……。
アブダビからアテネへは、4時間ほど。アテネからは国内線に乗り換えるが、ちょっと時間があったので、地下鉄に乗ってみる。切符は、窓口で「ワンパーソン」と言えば買える。改札で打刻すれば、90分間は、自由に乗り降りできる。
本当はアクロポリス駅まで行きたかったが、けっこう時間がかかるので、適当な駅で降りてみた。

17時ごろ、アテネ空港に戻ってきた。日は、まだ高い。空港の外にサンドイッチやビールを売る露店があり、みな、思い思いにくつろいでいる。まだ4月なのに、真っ青な空の下、タンクトップ姿のお姉さんが、のんびり座っている。
日が暮れてから、国内線でサントリーニ空港へ向かう。
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20時すぎにサントリーニ空港に着く。良いホテルは、迎えの車を用意して待っている。が、僕はフィラの安宿に泊まる予定なので、バスに乗る(飛行機の到着にあわせてバスが来てるので、フィラまで行くなら心配いらない)。バスは1.60ユーロと安く、車内で払えば大丈夫。
だが、順調だったのは、バスに乗ったところまで。それから3時間ほど、汗だくでフィラの町をさまようことになった。
まず、バス停でホテルの場所を聞いてみると、「ここ降りて、右」とか、大雑把なことしか教えてくれない。日本で印刷してきた地図は、まるで役に立たなかった。
フィラの町は、車の通りのはげしい道が一本、上下をつらぬいている。右に降りれば、民家が広がっており、左を登れば、複雑に入り組んだ大歓楽街となっている。僕は、坂道だらけの歓楽街をスーツケースを引きずったまま駆け上がり、サンドイッチやスブラキなんかを売っているスタンドで、ホテルの場所を聞いてみた。「この地図を見ると、たぶん、坂の下だろうけど……坂の下で、誰かに聞いたほうがいいよ」と言われ、そうすることにした。
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フィラの町は夜おそくまでにぎやかで、観光客相手のトラベルセンターが開いていた。デスクに座っていた60歳ぐらいのおばちゃんが親切で、「この前の道をまっすぐ左へ行って、坂を下りたところ。すぐそば」と教えてくれて、やっとホテルに着いた……が、レセプションは閉まっている。緊急時の電話番号が扉に貼ってあったので、それを写真に撮り、トラベルセンターへ戻った。
おばちゃんは親切にも、ホテルのオーナーに電話をかけてくれた。とっくに21時を回っている。「いま、オーナーがホテルへ向かったそうだから、あなたもホテルへ戻ってみて」。スーツケースを引きずり、真っ暗な道を、ホテルへ引き返す。だが、誰も来ない。レセプションは閉まったままだ。
幸い、まだトラベルセンターが開いていたので、「どこか別のホテルを知りませんか?」と泣きついた。おばちゃんは二箇所ぐらいに電話してくれて、空き部屋のあるホテルを見つけてくれた。「いま、そのホテルのオーナーが来るから、ここで待っていて」。
数分もすると、ヒゲをはやしたチーフ・チロル(■)のような、がっちりした青年がやってきた。
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チロルは、僕の重たいスーツケースを頼もしく持ち上げると、小さく清潔なホテルに案内してくれた。現金で40ユーロで泊めてくれるという。何もぜいたくを言える立場ではないが、彼は部屋を見せて、僕が納得するまで、現金を受けとろうとしなかった。
本当は、このホテルも、レセプションを20時で閉めているそうだ。僕が現金を払うと、チロルは「交渉成立だ」と、握手してきた。「もし夕陽が見たければ、イアに行くといい。マリンスポーツが好きなら、カマリ」と、彼は説明してくれるのだが……、いまはそれどころではない。明日の朝、例のホテルへ出向いて、あと二泊とまれるのか、それともキャンセル扱いになっているのか聞くぐらいはしないと……。
とにかく汗だくだったので、シャワーを浴びてシャツを着替え、ベッドに沈み込むようにして、眠りに落ちた。(サントリーニ島旅行記・2につづく)
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