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レンタルで、『モーレツ宇宙海賊 ABYSS OF HYPERSPACE -亜空の深淵-』。佐藤竜雄監督に、二度もインタビューしておきながら、今ごろ見ました。制作会社に嫌われてるから、試写状の類いは、いっさい来ません(笑)。すみません。で、インタビューのとき、『宝島』『銀河鉄道999』「東映まんがまつり」というキーワードは出ていて、特に「まんがまつり」感はクライマックスで高まる。ロボット(の形をした潜航艇)が出てくるせいかも知れないし、少年が父の遺産を受け継ぐ古典的なプロットが作用しているのかも知れない。僕は無責任に、「若い人が見ても面白い」とか薄甘いことは言いません。オッサンのほうが、楽しいアニメだと思います。
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先日、「かつての劇場用アニメは、オジサンに若者の嗜好を知らせるツールとして機能していた」と書いたけど、今は「アニメを見ない人に、“今はこんなアニメがあるんだ”と認識させるツール」なんだろうね。
20年前の『エヴァ』ブームのころ、アニメを見ない友人に、僕は意識して「こんなアニメがあるんだよ」と熱烈にアピールして、彼は夏エヴァに付き合ってくれた。彼の娘さんも「一緒に行く」と言ったんだけど、絶対にエグい(性的にも暴力的にも)シーンがあるから、それは止めたんだ。
「いかにして、アニメを見ない人に見てもらえるか」、それが課題であるような気がする……誰にとっての課題かは、今は保留にしておく。
劇場版の『モーパイ』は、キャラ原案こそあきまんさんだけど、キャラデはテレビとは違う。かろうじて、「深夜アニメなんて見たことない」人に通じるかも知れない絵柄になっている。(「アニメは、アニメ好きの人だけが見てればいい」と思っている人は、「今あるアニメだけがアニメ、今後、自分の想像もしなかった新しいアニメなんか出てこない」と諦観してないか?)
一方で、『魔法少女まどか☆マギカ』が、あの絵柄でアニメファン以外の人まで惹きつけたことを、今更ながら思い出す。「リアルな絵にすれば見てもらえる」のではなく、「アニメファンの中でしか通じない文法は、なるべく避ける」ことなのかも知れない。
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もうひとつ、『モーパイ』に限った話ではないけれど。
テレビアニメのアフレコって曜日が決まっていて、午前中にアフレコして、午後はダビングってパターンが多いんです(だから、取材のときはアフレコとダビングの中休みに呼ばれる)。
しかし、人気声優を集めれば集めるほど、全員の揃うチャンスが少なくなっていく。だから、余裕のあるうちに、アフレコだけ先に最終話まで終わらせておく。絵コンテまでは出来ていて、仮の尺は決まっているけど、原画作業はアフレコがすべて終わってから……という場合があるらしい。
だったら、予定になかった第二期をつくるようなスケジュールは難しいわけで、劇場用を一本つくるしかない。それで面白い作品がつくられたりするから、簡単に良い悪いを決められる問題ではない。
僕が『文藝別冊 神山健治』でインタビューした内容を引用すると、“同じ品質のものを均一に提供することができない”“「たまたま面白いものが出来た」という状況に50年も頼ってきた業界”なわけです。
そこに、先ほどのアフレコ優先の制作事情を考え合わせると、毎週毎週、偶発的に出来が良かったり悪かったりする状況が、とても心もとなく感じられてくる。
すばらしい作画には、週にワンカットは巡りあえる。だけど、その同じアニメーターが5年後に同じものを描けるか?といったら、絵描きさんというのは、そういうものではないんです(企画期間が長いと、キャラ表を描いた本人が「もうキャラ表の絵に似せられない」という場合もある)。
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いま、テレビシリーズの劇場版が増えてるし、劇場用でなくともイベント上映ならば、少しは制作に時間がかけられるのでは――クオリティの高い映像になら、お金を払ってもいい。内容が良ければ、安物の来場者プレゼントで水増しなんてする必要はない。むしろ、1/1の展示物があれば、写真に撮って観客がSNSにアップすることが、けっこう宣伝として機能する。
「こうすれば、みんなが幸せになる」って状況が、大きな映画館に行くと、少しは見えてくるような気がする。
(C)2013 笹本祐一/朝日新聞出版・劇場版モーレツ宇宙海賊製作委員会
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