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2014年11月 9日 (日)

■1109■

レンタルで、『モンスターズ/地球外生命体』。
339767_01_01_02_26年前に、地球外生命体を乗せた探査船が墜落し、メキシコを中心にモンスターが繁殖してしまう。危険地域周辺には米軍が戦車を駐留させ、上空には戦闘機が飛び交い、定期的に空爆が実施されている。

付近の住民には、化学兵器用のマスクが配られ、テレビでは、子供向けにマスクの着用を促すCMが流れている。
主人公は、モンスターと彼らに脅える現地の人々を撮影する、いわば戦場カメラマンのような男。彼は、金持ちの令嬢をメキシコからアメリカに逃がすために同行する。
主人公のセリフにもあるように、これはアメリカという母国を「塀の外側から見た」映画だ。社会的な視点がある。


低予算であるがゆえに、ディテールの描写には手抜かりがない。
001_l_large前半、主人公とヒロインが繰り出す夜の街の喧騒。オールロケの効果が存分に発揮されている。街の随所に、米軍の空爆に反対する落書きがある。危険地域であることを警告する錆びた看板、犠牲となった人々を弔う墓地、干からびた魚の死骸……。
それらの風景が、半永久的に局地戦をくり返すしかなくなった世界の現状を、雄弁に語る。本当の「今」は鳥瞰できない。歴史の断片に触れることでしか、「今」を感じるすべはない。

映画のラスト近くで、確信した。これは、ウェルズの『宇宙戦争』だ。原作の『宇宙戦争』は、全体を概観する描写は一切なく、ひとりの男の手記として書かれている。全体像を見渡すことの出来ない焦燥感が、そっくりなのだ。
意識してみれば、タコのようなモンスターが数本の長い足で直立して歩く姿は、『宇宙戦争』の火星人と三脚のウォーマシンに直結する。


そして、この映画は人生の岸辺にたどり着いた男女の物語である。
主軸は、モンスターを倒せるか否か、生き残れるかどうかではない。世界の運命に関与できない生身の男女が、いわば、世界の傍らに呆然と立ち尽くす。メキシコの国境をこえるまで、彼らは帰属している日常から切り離されている。その寂寥感が、映画全体を心地よく覆っている。
卑近な、手近なところにテーマを収斂させない粘り強さがある。何より、そこに感心させられた。

旅情を誘う映画でもある。映画を見ながら、透明人間になれたら、タダで飛行機に乗りながら、死ぬまで世界中を転々とできるのになあ……と、おかしなことを考えていた。

(C)Vertigo Slate 2010

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