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2014年11月16日 (日)

■1116■

朝はやく起き、たっぷりのお湯につかって、「今日はどうやって過ごそうか?」と思案する。
次の仕事のしめきりは、一週間ほど先だ。駅の北口でDVDをレンタルしてきてもいい。南口の図書館に行ってもいい。日曜日。外は穏やかに晴れている――。
ふと、ヴァンゲリスのオリジナル・ファーストアルバム『アース』に収められていた『イン・ザ・レイン 』の歌詞が、頭をよぎった。

My face in the rain
I walk all alone
It's Sunday time is slow
I'm happy that is all I know


本棚の隅に山をつくっていた、古い雑誌の整理をした。
僕がライターになった当初の、1998~1999年の「週刊SPA!」、書いた記憶のほとんどない「日経キャラクターズ!」の『ガンダムSEED』の取材記事、「シネコンウォーカー」の宮崎吾郎さんへのインタビュー記事などが出てきた。
「週刊SPA!」は、毎週水曜になると担当編集から「ピーンチ。廣田くん、ピーンチ」と電話がかかってきて、僕は即座に取材ネタを探して、アポとりから素材集めから、ひとりでやることが多かった。最速では、電話を受けてから6時間後に、原稿と写真を編集部に送ったこともある。
ひとりで仕事するのが好きだった。90年代後半の、ひんやりと冷たい東京の空気は、今でも忘れられないし、嫌いではなかった。

浜松町駅下車、東京湾にちかい通りに、「週刊SPA!」を発行している扶桑社はある。
ある日、編集者は僕を呼んで、高級なエスニック料理をおごってくれた。「しかし、お前さん、今のままでは生活が成り立ちますまい」。
それから、彼は多くの仕事を回してくれるようになった。98年の秋ごろ、僕は31歳だった。


夜になって、TSUTAYAで借りてきた『アイアンマン2』を見た。
ここのところ、仕事の都合で、アメコミ映画ばかり見ている。

トニー・スタークは大金持ちだが、その心は平穏ではない。胸に埋め込んだ動力炉のせいT0008293 で、身体が侵食されつづけている。
自暴自棄になった彼は酔っぱらい、ゴージャスなパーティを開き、そうかと思うと、Tシャツとスニーカーでオフィスに現われ、引きこもって研究に没頭することもある。

スタークを演じたロバート・ダウニー・Jr.は、当時45歳だった。
彼自身、華やかな経歴を薬物中毒で台なしにしてきた経歴を持つ(新しい動力炉を埋め込んだときの「口の中に金属とココナツの味がする」という感想は、彼のドラッグ体験が下敷きになっているようだ)。
その、いわば役者と役柄の起死回生が渾然となったとき、決して悲壮にならない。どこか、投げやりなほどの多幸感に満ちている。
膨大なビジュアルエフェクトを隅から隅まで堪能し、まだ一時間ある、あと30分もある……とゾクゾクしている。こんな満ち足りた娯楽を、たった108円で味わえる。しかも、続編も借りてきてある。今夜みても、明日の夜に見てもいい。
とてもちっぽけなようだが、これはこれで贅沢な時間。あの31歳の秋から、どうやってここまでたどり着いたのだろう、と思いをめぐらす。

Iron Man 2, the Movie: (C) 2010 MVL Film Finance LLC. Iron Man, the Character: TM & (C) 2010 Marvel Entertainment, LLC & subs. All Rights Reserved.

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