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2014年1月16日 (木)

■0116■

大島渚のドキュメント番組『忘れられた皇軍』に熱烈なコメントを寄せていた是枝裕和監督。代表作の『誰も知らない』を見たことがなかったので、レンタルしてきた。
Daremo4巣鴨の子供置き去り事件をモチーフにした、ドキュメンタリー風の作品。母親に捨てられた兄弟4人の都会生活が、貧困によって崩壊していく。最初は長女が干していた洗濯物は部屋の中に投げ出され、ボロボロの汚れた服を着た子供たちは公園で水を汲み、頭を洗い、コンビニから賞味期限切れのおにぎりをもらって、ぎりぎりの飢餓をしのいでいる。

事件は1988年に起き、映画は2004年公開。だけど、それから10年を経た今のほうが、リアルに感じられるような気がするね……。
実写映画は、実社会と無縁ではいられないはずなんだ。原発事故以降、日本映画がどうでもよくなったのは、バブリーな夢の中へ逆戻りしてしまったから。テレビドラマの劇場版だとか、本当にクソッタレ。原発をモチーフにしながら、「それでも日常は続いていくよ」式の実写映画も、しょせんは現実逃避のファンタジーなので、同じぐらいの嫌悪感をおぼえる。

10年前、僕は結婚していて、ゲーム会社の正社員でいられた。だけど、地方から出てきた20代の社員は、漫画喫茶で夜明かししたりしていたんだよね。僕のようなバブル世代とは、生活意識が違ったんだろうと、今になって思う。


僕が中学生ぐらいのころ、「一億総中流」という言葉があった。うちの親が、学校のアンケートに答えて「中流」のところに丸をつけているのを、ちゃんと覚えている。
「ウソつけ」と思った。小学校のころは、ボロボロの木造の長屋に住んでいる友達がいたし、同じクラスに庭つきの邸宅に住んでいるヤツもいた。しょせんは、「彼らに比べればウチはマシ」「しかし、お金持ちというほどでもない」だとか、そんな気味の悪い他人への遠慮が「中流意識」の正体だったんだ。
バブル世代は、中流意識から逃れられないんだと思う。実社会がどうあれ、他人がどうあれ、貧乏だけはイヤだ。同じ日本に貧乏な人がいようが、自分が貧乏でさえなければいい。

是枝裕和監督は、バブル景気の真っ只中に青春時代を送った。あのお祭のような日々を甘受してきたはずの人。『誰も知らない』のモデルになった巣鴨の事件は、彼が早稲田大学を卒業した翌年に起きた。あんな豊かな時代に、同じ東京に住む子供たちが飢えていただなんて、信じられない。
是枝監督は、その残酷な対照を、他人事とは思えなかったんだろうな。一億総中流意識からこぼれ落ちた人たちを、彼は無視できなかったんだ。


映画の中に、いじめられて不登校になった女子高生が出てくる。ちょっとリアリティがないんじゃないかと思ったけど、彼女が帰る家ってのは、自動ドアのある高級マンションなんだよ。緑が茂っていて、うっすらと木陰になった歩道橋の向こうに、グラウンドが広がっていたりしてさ。その静謐な風景を、薄汚い服を着た主人公が見ている。
その彼が荒れ果てたアパートに帰る道筋に、歩道との高低差を埋めるためのコンクリのブロックがあって。それを踏むとき、「ゴットン」と嫌な音がする。それはいわば、無関心の音だ。笑いもしないし、泣きもしない。嬉しくもないが、悲しくもない。フラットな音。フラットな感情。

監督は、また嫌なロケ地を選んでいて。行くあてもない子供たちが遊ぶのは、小さな原っぱのような土地なんだけど、その向こうで巨大な重機が新しい建物をつくっている。その建物は、飢えた彼らを救いはしない。関係がないんだ。
かろうじて、彼らがすがることの出来る場所がコンビニ。コンビニが24時間営業になった頃から、いろいろおかしくなった。そういう意見がある。そうかも知れない。すべての時間が均質化された。暑くても寒くても、コンビニに行けば大丈夫じゃないか。おなかが空いたら、コンビニに行けばいいんじゃないか。だけど、その安心感は、のっぺらぼうだよね。コンビニは、僕らの気持ちを地ならしした。寂しくも嬉しくもないよう、均質にした。無慈悲にした。

もうひとつ、この映画で象徴的なのは、どんなに追いつめられて、死を身近に感じても、子供たちが警察にだけは行かないところ。警察や施設は、ダメなんだって。「ダメ」って、つまりは幸せにはなれないってニュアンス。
この映画から10年たって、何かひとつでもマシになったものがあるんだろうか? 悪化の一途をたどってると思う。

(C)2004 『誰も知らない』 製作委員会 All rights reserved

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