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2013年11月 8日 (金)

■1108■

『夢と狂気の王国』、マスコミ試写。「ジブリというスタジオから見た、四季の風景」といった趣で、女性ディレクターらしい控えめな距離感がある。だが、ジブリ設立当初の古いフィルムなども使われていて、お手軽感はない。
Mmi_kyoki_01「宮崎駿の喋っているところを、一秒でも長く見ていたい!」という人やジブリ関連の資料本を読み込んだ人には、やや物足りないかも。単に『風立ちぬ』のメイキングであれば、「ロマンアルバム エクストラ」が凄まじいので、あれ一冊あればいいように思う。そのへんの按配は、見る人によるだろうな。
庵野秀明さんが、けっこう師匠のことを語っていて、当時の落書き(宮さんに「人物、下手だね」と言われるヤツ)も出てきて、庵野ラブな人も必見。惚れなおすよ。
意外なところでは、宮崎吾郎さん。けっこう辛いところを撮っていて、あのシーンは、もう少し長く見たかった。

もっとも大事なのは、『風立ちぬ』見て、『かぐや姫の物語』見たら、レンタル待ちとかしないで、早めに見たほうがいい。それだけ、今年は区切りの年だったんだよ。「ひとつの時代が終わった」ことを体感しないとね。
高畑勲さんは、残念ながら、あまり出ません。その代わり、『かぐや姫』の若きプロデューサー・西村義明さんが、歯に衣着せぬ弁舌で、なかなか聞かせます。
(『かぐや姫』は、プロデュース的にも逆風が吹きまくっていたんだな。あの映画は137分という長さが、唯一のネックなんだよなあ……と言って、どこも切れないんだけどね。)

マニアックな知識の必要ない、万人向けのつくりになっているけど、「奥田誠治」と言われて「日本テレビ」と連想してしまう人なら、細かい発見はいろいろあると思う。スタジオの落書きを丁寧に拾っているのも、良い。


ただ、ものすごく気になる会話があった。具体的には書かないけど、それは表現規制の話。ほんの二~三言だったけど、ゾッとさせられた。
具体的に『風立ちぬ』や『かぐや姫の物語』が国から検閲を受けたのではなく、これから先の話なんだけど……。そのシーンもあったから、「いい時代が過ぎていくなあ」という悲愴なたそがれ感が、どこか根底に流れている。

『かぐや姫の物語』にディズニーのお金が入っているのは、割といいことだと思う。日本が滅んでも、アメリカに残るから。あの映画は、百年ぐらい、平気で残るだろう。
対して、宮崎さんは“超一流の俗物”だと思うので、時代によって評価が変わるんだろうな。ミリタリー好きって部分も、賛否両論だろうしね。宮崎さんが「あのオタクども」と怒っているのを、僕らが「何だよ、ロリコンのくせに」と茶化しているのが、健全な関係だと思う。
黒澤明が国内で撮れなくなってきたころ、日活ロマンポルノが現われた。それが文化なんだよ。下世話なまでの文化のしぶとさ。
佐藤忠男さんは「映画は、自由を目指す」と書いたけど、どんな映画でも、かなり芸術的な映画でも、主人公が抑圧から解放されるとか、逆に閉じ込められてバッドエンドか、どっちかなんだよ。(『かぐや姫の物語』は、自由を失うことの辛さについての映画だしね。)


高校時代の話。自称“映画好き”のクラスメイトが、年賀状に「今年期待できる映画ベスト10」を書いて、送ってくるわけ。そのベスト10は、彼個人の意見だから、ぜんぜん構わないんだけどね。彼は、オナニーしたくなると、腕立て伏せして、禁欲していたそうです。
そのベスト10と禁欲の話を合わせてみて、“抑圧の萌芽”みたいなものを、僕は感じてしまったのね。彼のベスト10に入らない映画は、彼にとっては、汚らわしい忌むべきものなのかな?って。後に、彼は牧師になったそうです。

だからね、「クソ映画」とネットに書くぐらいなら笑ってすませられるけど、映画サイトの「この映画の注目度」とか「5点評価しよう」とか、作品を選別して優劣をつける価値意識は、やすやすと表現規制と結びついてしまうよ。
秘密保護法について、法学部の学生が「知りません」と答えていて、ちょっと絶句したんだけど、「そんな風なら、君らの自由は、持ってもあと3年だね」……と思ってしまう。

話がそれたけど、「素晴らしい映画だから、後世に残しましょう」という考え方は大事。それと同時に、いかなる映画も表現も、踏んでも蹴られてもいい状態にしておくべき。蹴られた映画は、きっと、誰かがキャッチするんだよ。

(C)2013 dwango

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