■0430■
東京に暮らしていると、いやでもオリンピック誘致の広告が目に飛び込んでくる。もちろん、広告代理店や関連企業が儲かるからやっているわけだが、都民の税金も投入されているので、「勝手に誘致してくれ」というわけにはいかない。
さて、猪瀬直樹都知事が、ライバル都市のイスタンブールを「イスラム諸国が共有しているのはアラー(神)だけで、お互いにけんかばかりしている」などと批判してしまった(■)。
……だから、いつも言っているとおり、「歳くった人間のオスは、ろくなことをやらない」。特に猪瀬は、反省・謝罪するどころが「真意が伝わっていない」「訂正したい」と開き直ってしまった。66歳で、こんな幼稚なこと言ってる。「朝鮮人をぶっ殺すぞ」と盛り上がっている連中もそう、異文化を理解しようという謙虚さも勤勉さも、日本の大人はタン壷に捨ててしまったんだ。子ども達に、何の規範も示せない。
そして、僕が何より気持ち悪いのは「まあ、怒るのも分かるけど、都知事にもいろいろ事情があったんじゃないですか?」と、穏便にことをすますのが「大人」だと勘違いしている善良で温厚で、羊のように心優しい市民たちさ。「まあまあ、落ち着いて」ととりなすのが「知性」だと信じてやまない連中!
お前たち、腹の底から怒ったこと、ないだろ。目上の人間を怒鳴りつけたこともないだろ、反抗したこともないだろ? 心のメーターが振り切れるぐらい感動したことも、涙があふれるぐらい人を好きになったこともないだろう?
日本の大人は、不感症。空威張りするしか、能がない。
■
母国をなくした男が、国際空港で暮らす『ターミナル』、ようやく見られた。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』の対極にあるような、不器用な処世術の映画だった。架空の国家・クラコウジアからニューヨークへ向かうトム・ハンクス。彼の母国は軍事クーデターにより崩壊するが、映画の設定は2004年。1991年のソビエト崩壊後、次々と革命のおきた東欧諸国のひとつ……と思いきや、国際情勢に詳しい人に言わせると、もうちょっと入り組んだ設定らしい。
ラブロマンスまで盛り込んだプロットは、割とどうでもいい。映画の価値は、あらすじなんかでは決まらないから。母国をなくし、国籍を失って国際空港に寝泊りする……このシチュエーションだけで、百点だ。
国際空港は、いわば「どこでもない」。ただし、そこからどこへでも行ける。世界の誰であろうと、国際空港では「誰でもないし、どこの国の人間でもない」。だけど、人権までは剥奪されない。
そこは滞留地点だし、緩衝空域だし、人生の空白地帯だ。
この映画には、インドで警官を殺しかけてしまい、空港で掃除夫をやりながら、ひっそりと生きている老人が出てくる。日本の警官など、殺す価値もないが……遠い国の空港で、人知れず働く老後なんて、憧れてしまう。
国を捨てて隠遁するように生きるなんて、世界一の贅沢じゃないか。
■
僕の立ち寄ったドーハ国際空港には、あらゆる人種があふれていた。場所柄、法衣を着たイスラム教徒の集団がいる。もちろん、西欧人もいる。行くあてもないように、エスカレーター脇に座り込むアジア人がいる。
男子トイレに入っただけで、いろいろな肌の人間がいて、「掃除中」を示すらしい黄色いテープが貼ってあると、黒人も白人も、誰もが同じように「何だコリャ、いま使えるの?」という顔をするのが、面白かった。
帰路では、精神的に余裕があったから、空港内のスターバックスに寄った。
近寄ってきたウェイトレスにユーロが使えるか、聞いてみた。しかし、値段を聞き間違えて、オレンジジュース一杯に、20ユーロも払ってしまった。その時のウェイトレスのポカンとした顔、なかなかキュートだった。
誰もが、順番を譲り合っていた。疲れている人のそばで、うるさく話すような者も、いなかった。
■
さて、打ち合わせから帰ったら、イスラエル映画『迷子の警察音楽隊』を見る。いろんな国の、いろんな映画を見よう。
TM & (C )2004 DREAMWORKS LLC
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)