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2012年1月18日 (水)

■0118■

『ぼくのエリ』のハリウッド・リメイク『モールス』を借りてきた。
0118original僕は、映画のリメイクではなく、原作の『モールス』の再映画化というつもりで見たんだけど、やっぱり『ぼくのエリ』だね、これは。ショッキングなシーンは、より派手に。そして、『ぼくのエリ』で上手に映像化された部分は、そのまんま。

映倫が検閲対象にした肝心のシーン。エリの股間の手術跡。これは、最初から撮影されなかったらしい。だけど、主人公がエリの着替えを見て、驚くカットは残してある。これでは、ますます意味が分からない。
なのに、セリフで「女の子じゃない。何者でもないんだよ」と言わせている。どうしたいんだ、何を見せたいのか見せたくないのか?

原作小説では、何百年か前のエリの回想シーンが登場する(そこで去勢された過去が語られる)。これが壮大にグロテスクで、ちょうど『パンズ・ラビリンス』みたいな光景。ぜひ映像で見たかったのだが。
『クローバー・フィールド』の監督なら、それぐらい出来るだろう。


原作は、性的マイノリティに対する深い目線があって(決して温かい目線ではない)、そこが読みどころ。
エリの父親のように見えるホーカンは、実は少年愛好癖があり、それが原因で職を追われてしまう。アルコール依存に陥り、緩慢な自殺を試みる。そこを、突如として現れたエリに救われるわけだ。
だから、単にエリに欲情しているだけではなく、人生に引き戻してもらったと感謝の念をいだいている。かと言って、彼の悲惨な末路は、映画以上なんですけどね。

あとは、北欧の田舎町の狭いコミュニティであるとか、80年代に流行ったロックであるとか、ヴァンパイアが太陽光線を「痛がる」描写であるとか、本当にディテール豊富な小説。命とか性に対する多義的な解釈も、ヨーロッパらしい。
……ただ、この小説を読んだのは、配給会社にモザイクの件を聞きに行くためなんだよなあ。銀座で最初に見たときの、「すごく良かったんだけど、欠陥品を買わされた」感は、今でもありありと記憶している。

ちなみに、『ぼくのエリ』にモザイクを入れた国は、日本のみです。アメリカでは、ノーカットで公開されました。


いまだに、映倫の犯罪的とも言うべき修正強要について、このブログに辿り着いてくれる方が多く、頼もしく思っている。
映倫が、かつては配給会社を守るために、検察と戦ってくれるような組織だったことは『切られた猥褻 映倫カット史』を読めば分かります。

なぜ、今は配給会社に自主規制を強いるような、くだらない組織に堕したのか? 彼らは公開質問状でシレッと嘘をつきました。→
嘘をついても、追求されたことがないんですよ。逆を言えば、われわれは表現規制されているのに、ずっと無関心だった。ほとんどの人が、映倫の存在なんて忘れているでしょう。映画評論家だろうが、誰だろうが。

僕たちは、すぐに忘れる。なかったことにする。場の空気を優先して黙り込む。「どうせ無駄だ」「まあ仕方ない」とあきらめる。
ゲーム会社にいたころ、無能なリーダーがこんなこと、言ってたよ。「俺らはまだ、飲みに行ってないから、険悪なだけだよ。一回、飲めば和むって」。それは問題の本質をズラしているだけだろう。

たった一人になっても、忘れずに怒りつづけるべきなんだ。

(C)2010 Fish Head Productions, LLC All Rights Reserved.

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コメント

廣田さま

自分も『ぼくのエリ』、『モールス』共に見ました。

>ショッキングなシーンは、より派手に。そして、『ぼくのエリ』で上手に映像化された部分は、そのまんま。

全く同意です。「自分の表現で挑戦したいから、リメイクした」って気概が感じられませんでした、僕は。

>驚くカットは残してある。

このシーン、『エリ』での顛末を知らない方には驚いているようには見えなかったんではないですかね?
モザイクを入れてしまった『エリ』はテーマを語るという意味においては『モールス』と並んでしまっています。

それにしても、『エリ』を演じた女の子のなんて魅力的なこと。
『モールス』の子の方が圧倒的に可愛いのですが、そこから先がないんです。吸血シーンなんて、ただのモンスターですし(笑)
少年も、オスカーの方が好きだなぁ。

質問なんですが、『モールス』では、アビーの部屋において、アビーとトーマスのツーショットと思われる古い写真が出てくるシーンがありますが、これは原作にもあるんですか??
『モールス』では、すごく良いシーンだと思いました。

投稿: かまた | 2012年1月18日 (水) 23時10分

■かまた様
どうも、『モールス』はリメイクする意味を見つけだす前に、見切り発車で完成させてしまった感がありますね。

>モザイクを入れてしまった『エリ』はテーマを語るという意味においては『モールス』と並んでしまっています。

『モールス』はタブーに触れたくないけど、『エリ』にあったシーンだし、どうしようどうしよう……で、中途半端な結果になった感じがしますね。

『エリ』のモザイクに関しては、「日本人には、こうするよりなかった」だけですよ。態度を決定できないから、「修正入れるまで審査しない」という責任回避に出たのが映倫。日本人らしい逃げっぷりですよ。
配給会社は、R-18を覚悟して、シーンを残そうとしたのに……。

>『モールス』の子の方が圧倒的に可愛いのですが、そこから先がないんです。

『キック・アス』に出ていた子ですよ。
その時点で、『モールス』はキワモノ映画として作られたのかな?と邪推してしまいます。

>質問なんですが、

いま原作をめくって探してるんですけど、似たようなシーンは、あったような気がします。
確かに、映画の『モールス』にも、いいシーンはあるんですよね。

投稿: 廣田恵介 | 2012年1月19日 (木) 01時37分

廣田さま

>どうしようどうしよう……で、中途半端な結果になった感じがしますね。

そもそも、オーウェン少年もどうしていいか分からん顔をしていましたね(笑)
台本になんて書いてあり、監督にどんな指示をされたんでしょう。

>『キック・アス』に出ていた子ですよ。

この事実は僕はあとから知ったので、バイアスはかからなかったのですが、彼女はちょっとこの作品のイメージとは違うと思いました。

>いま原作をめくって探してるんですけど、似たようなシーンは、あったような気がします。
確かに、映画の『モールス』にも、いいシーンはあるんですよね。

ありがとうございます。
原作にもあったようですね。
映画『モールス』もハッとするシーンはありましたね。

>「日本人には、こうするよりなかった」だけですよ。

なんだか、映倫の話に留まらず、今の日本を象徴しているような感じです。
映倫の対応って、どこかのお役所とか大企業と一緒ですよ。

今度、原作を読んでみます!

投稿: かまた | 2012年1月19日 (木) 12時49分

■かまた様
>台本になんて書いてあり、監督にどんな指示をされたんでしょう。

12歳だと、もう第二次性徴が現れる年頃だと思います。だからこそ、「女の子じゃない」ことが驚きになり、主人公の決意にもつながるわけですね。
そこを丁寧に掬い上げるのが、倫理というものでしょう。

>映画『モールス』もハッとするシーンはありましたね。

Wikipediaを見て驚いたのですが、企画は『ぼくのエリ』公開前だったそうです。
しかし、結果的に『ぼくのエリ』が先に完成し、何だかいろいろと言い訳っぽいコメントが並んでます(笑)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%B9_(%E6%98%A0%E7%94%BB)

でも、こうして「ここが足りない」「いや、いい所もある」と言い合うのも、楽しみのひとつですかね……。

>映倫の対応って、どこかのお役所とか大企業と一緒ですよ。

映倫を監視する機関は、ありませんからね。権利を独占すると、霞ヶ関も電力会社も、どこも腐っていく。
僕の中では、映倫に向けた怒りと、原発利権集団に向けた怒りは、かなりの部分で重なっているのです。

映倫は文化の敵であり、後者は文化を支える土地や命、すべてを愚弄しています。

投稿: 廣田恵介 | 2012年1月19日 (木) 18時54分

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