« ■1210■ | トップページ | ■1214■ »

2011年12月12日 (月)

■1212■

昨夜、映画『けいおん!』を見てきました。

もともと、テレビの『けいおん!』シリーズは「TOP YELL」誌に書いたことが「すべて」と言って20111202003723_00_400もいいぐらい、演出寄りに見ていて。どのキャラクターが好きとか、ギャグが面白いとか、そういう気持ちは、実は薄いです。
映画版だから、ちょっとスケール大きくしてロンドンへ行くと、いわゆる「でかいテレビ」になりかねない。それだったら、「なんでもない一日」を丁寧に描いてくれたほうがいいのになあ……と思っていた。

いやいや、日常的にリアルなシーンもあるんです。廊下にゴミを落としながら歩くところとか。それをパンくずのように追っていって、でもそのシーン自体に意味は薄くて、おとぎ話みたいだなーこんなリアルな絵なのに……とかね。数え切れないほど、いいカットがある。


ところが、物語がロンドンへ移ってからが、すごい。
イギリス人の声は、ネイティブです。厳密には発音の差があるとは思いますが、とにかく日本人が英語を話しているわけではない。それだけで『けいおん!』というファンタジーの世界が、ギュッと現実寄り……いや、「ファンタジーの中のリアリティ」という多層構造を獲得するんです。

ロンドンに着いた翌日、音楽を背景に、いろいろなシーン(僕はスラッシュ・カットと勝手に呼んでますが)が、続きます。
僕が息を呑んだのは、公園で芝刈り機の上に乗った男が、何気なく首の向きをかえるロング・ショット。スナップ写真みたいに実体験的。ドキュメンタリックなんです。
でも、ストーリーは美少女たちの珍道中でしょ。そのギャップが、もう暴力的なまでに気持ちいい。一線を越えてしまっている。

すごくリアルな外国人のおじさんやおばさんがいる中に、5人だけ、見慣れた美少女たちが歩いている。その景観の仮想性、とでも言えばいいのか?
20111202003723_01_400もともと、僕らは彼女たちに没入(ジャック・イン。サイバーパンク小説で、他人と身体感覚などを共有すること)して、あの放課後に接していたはず。だけど、彼女たちは放課後を遠く離れた、何だかリアルな時間と質感の世界へ、降り立ってしまった。

そうすると、もう自分がどこに立っているのか、分からなくなる。
同じ部屋に泊まっている唯と梓が、お互いを「居なくなってしまった」と勘違いして、ぐるぐる回る。『不思議の国のアリス』。無限回廊。

そこから先、何が起きようが、ずーっと脳がしびれた感じで。


そういうサイバーパンク的感覚は、たとえば、テーマに関わる部分でも発生している。
時差で、「ロンドンでは今日でも、日本では明日なんですよ」と聞いた唯が「じゃあ、日本に電話したら、未来と話すことになるの?」「日本に帰ったら、過去に戻ることになるの?」などと言う。
――それはつまり、梓と別れたくない、卒業したくない、時に抗いたいってことですね。

それで、さわ子先生が助けに来るでしょ。こんなサービスシーンは余計だなあ、と思ったんだけど、前夜の電話が日本からで、唯は「未来からの電話だ」と解釈する。
諸君、これがSFと言うものですよ。過去にライブをやった(そのライブ体験がラストシーンへの布石となる)さわ子先生が、未来から来るんだから!

で、飛行機の時間ぎりぎりの唯たちは、タクシーで空港へ急ぐ。
タクシーは「右から左へ」走り去ります。その上空を「左から右へ」飛行機が飛ぶ! ちゃんと過去に向かって飛んでるよ!

いや、参った。
唯が赤ちゃん(未来へ向かって歩く者)に気をとられて、どんどんライブの時間を延ばしていくのも印象的だった。


それで、割とあっさり、日本へ帰ってくるでしょう。
唯たちが屋上を走る――「右から左」へ。ここのPANと芝居、綺麗ですね。
そして、唯は飛行機雲を見上げる。雲の伸びていった方向と交差するように、ずっと低い位置を鳥が飛んでいる。言うまでもなく、それは卒業する唯たちと梓なわけです。
そして、梓に曲をプレゼントした唯たちは「左から右へ」歩いていき、映画は終わる。つまり、過去に向かって。なのに、会話では来年の話、未来の話をしている!

このような構造をもつ以上、『けいおん!』という作品は終われないし、終わらないのです。
未来へ託しましたとか、次の世代へバトンタッチとか、やっぱり女は男と結ばれてナンボとか、何十年もつづいてきた父権的ドラマツルギーに三行半を叩きつけている。


大好きな、立川シネマシティの日曜最終回を狙って行ったら、たまたま震災から9ヵ月後の11日でした。
過去を振り返りつつ、未来の話をしましょう――。そういう強度を、僕はこの映画から感じとれたのです。

(C)かきふらい・芳文社/桜高軽音部

|

« ■1210■ | トップページ | ■1214■ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ■1212■:

« ■1210■ | トップページ | ■1214■ »