■1117■
あいかわらずの体調不良なので、さっさと仕事のノルマを終わらせて、寝る。
午前3時ぐらいに目が覚めてしまったので、「どうせ途中で寝るだろう」と、録画してあった『許されざる者』を見はじめる。面白くて、一気に見てしまった。
日本での公開は、1993年。僕は一人暮らしをはじめた頃で、まだ大学の同窓生とつるんでいた。「おい、『許されざる者』は見たか?」と聞かれたのを覚えている。
僕はまだ、たった25歳か26歳。その年齢で見ていたら、おららく、多くのものを取りこぼしていたはずだ。クリント・イーストウッドは、撮影時、60歳をすぎていた。僕は44歳だから、ちょうど良い年齢で見られたと思う。
クリント・イーストウッドは、ダーティハリーだった男だ。僕には、その程度の知識しかない。
ただ、『ダーティハリー』を見た23歳ごろ、「爽快感のない映画だな」と思った。『許されざる者』とは、かつてのイーストウッド、人殺しに躊躇しなかった彼自身のことだ。あるいはまた、権力を後ろだてに横暴に振舞う、ジーンハックマンのことでもある。映画が進み、そのシーンで誰が何をしたかによって、誰が『許されざる者』なのか、たえず揺れ動く。
■
そして、イーストウッドがあらかじめ妻を失って登場することで、見る者は自分が何を失っているか、思い出さずにおれない。
イーストウッドが失っているものは、妻だけではない。若さや体力を失っている。彼は、ふたたび銃をとり、最初はいやいや賞金首を狙うが、親友を失ったことから、殺意を取りもどす。だが、その代わりに「二度と無法者には戻らない」という決意と信念を喪失する。
イーストウッドより圧倒的に若いジェームズ・ウールヴェットは、初めての殺しによって、潔白だった人生を失う。
その瞬間、彼はイーストウッドの過去に嫌悪をいだく。だが、イーストウッドは彼を「唯一の友」と呼び、賞金を子供たちに渡すよう、託す。
彼は、血に濡れた金など、触るのもイヤだっただろう。そうして考えていくと、三重にも四重にも人生が重なって描かれていることに気づく。これは、歳をとらないと分からない。
リチャード・ハリスにくっついていた伝記作家が、何かにつけて「ただのライターです」と言いのがれるのが、なんとも痛々しかった。傍観者だから、後ろめたい。そんなに誇るような職業でもないのだ。
■
映画が終わってから、少しだけ寝た。調子が悪いせいか、異様な夢を見た。
いつものように、業界の知り合いと飲む。僕は夢の中でも「廣田さん」と呼ばれており、仕事を抱えているので、気持ちが落ち着かない。
なのに、その知り合いは性格がルーズで、ずるずると飲みつづけ、彼の妻や妻の友だちと朝まで過ごすことになってしまう。そこには倫理がなく、セックスと趣味に耽溺し、すべてを暴力で解決する暮らしがあった。
目が覚めると、どこか他人の家で目覚めてしまったかのような違和感があった。ただ、そのように脳がしびれた状態下でないと、考えられないことがあるので、なるべく考えることに徹した。
映画でも夢でも、自分の人生に多様な意味を与えてくれる体験は、ありがたい。孤独な身の上には、欠かせないものだ。
しかし、やはり若いことには価値がある。若ければ、たいがいのミスは許されるからだ。
■
| 固定リンク
コメント
廣田さま
ここ最近、体調不良続いてますね。
寝る際に加湿器をつけてみてはいかがでしょう?だいぶ違うと思いますよ。
お大事に。
>『許されざる者』
懐かしい!何度も見たくなる映画です。
まず、タイトルが逸品。原題『Unforgiven』ですから、『許されない者』でもよいはずが、『許されざる者』ですよ。
オヤジが西部劇大好きで、一緒に幼い頃から相当見てきました。これの初見は10代半ばの頃でしたが、子供心に「今までの西部劇とは違う」と思いましたね。
たいていの西部劇は勧善懲悪ものであり、正義の味方により悪党が痛快に容赦なく大量に殺されてしまいますが、この映画は善悪関係なく命を奪うことの罪深さが描かれており、賞金首を討ったあとのキッドの荒れようとか、うんざりします。
廣田さんの仰るように、この映画の真価の片鱗に触れられるようになったのは30過ぎてから。今後も思い出したように見たいです。
イーストウッドの撮る映画はヒット作多いですが、どうもここ最近のは僕にはあざと過ぎる気がします。
『パーフェクト・ワールド』あたりまでが好きですねぇ。
投稿: かまた | 2011年11月17日 (木) 23時08分
■かまた様
喉を乾燥させないよう、注意はしてるんですが……風邪薬は飲んでもムダなので、やめました。
>まず、タイトルが逸品。
僕もいいタイトルだと思いました。まったく同じ原題・邦題の映画が60年代にあったらしいんですが、それでも、この映画にふさわしい優れたタイトルです。
>この映画は善悪関係なく命を奪うことの罪深さが描かれており、賞金首を討ったあとのキッドの荒れようとか、うんざりします。
いや、本当に。あれだけ殺しておいて、酒場で一杯やっていたり、見苦しいんですよね。
だから、あの後、「商売で成功した」と言っているけど、家庭は荒れたんじゃないかとか、いろいろ想像してしまいます。
個人の想像によるピースがはまって、初めて完成すると思うんですが、年齢や体験によって、そのピースの形が変わるであろうところが、いちばん面白い。
>イーストウッドの撮る映画はヒット作多いですが、どうもここ最近のは僕にはあざと過ぎる気がします。
僕は、そんなによく見てないんです。圧倒的に邦画が多くて、アカデミー賞なんて『グラン・トリノ』を見るまでは、興味が出ませんでした。
『インビクタス』を日本語で見たら、モーガン・フリーマンの声がアダマ提督と同じで、参りましたね。まったく集中できないという(笑)
投稿: 廣田恵介 | 2011年11月18日 (金) 04時23分
廣田様
遅まきながら・・・
『許されざる者』というタイトルは『輪るピングドラム』第17話のサブタイトルでもあったのですね。
録り溜めており、昨晩やっと鑑賞。この作品、精神を疲弊するので、心身共に安定している時に見るようにしています。(苦笑)
>『インビクタス』を日本語で見たら、モーガン・フリーマンの声がアダマ提督と同じで、参りましたね。まったく集中できないという(笑)
これは僕も一緒(笑)
今度、吹き替えで見てみます。
『ギャラクティカ』は罪深い作品ですね。
投稿: かまた | 2011年11月26日 (土) 11時40分
■かまた様
>『許されざる者』というタイトルは『輪るピングドラム』第17話のサブタイトルでもあったのですね。
そうでしたっけ。
確かに、この作品は見るのに気合が必要ですね。昨夜、記事のために場面カットを選別していたのですが、切なくて泣いてしまいました。
>『ギャラクティカ』は罪深い作品ですね。
『ハートロッカー』だと思いましたが、ほんのチョイ役の兵士の声が、ランプキンなんですよ。
すっごい気になってしまって、「あんないい声優を、こんな程度の役に使うのか」と腹ただしくもありました。
事務所がバーターで使うので、だいたい同じ声優さんたちが、ひとつの作品に出てしまうんですよね。
投稿: 廣田恵介 | 2011年11月26日 (土) 18時52分
廣田様
>そうでしたっけ。
えっ!?
てっきり、『ピングドラム』に掛けたエントリーかと思っていました。
偶然ですねぇ
http://penguindrum.jp/story1/
>昨夜、記事のために場面カットを選別していたのですが、切なくて泣いてしまいました。
この作品に仕事として挑むのはとんでもないパワーがいりますね。
自分は冠葉が両親とラーメン屋にいるシーンだけでもうクラクラ・・・
17話で見せた陽毬への愛情すらも疑ってしまいそうですよ。
>事務所がバーターで使うので、だいたい同じ声優さんたちが、ひとつの作品に出てしまうんですよね。
そういうシステムなんですね!初めて知りました。
これからはもっと注意して吹き替えを見てみます。
投稿: かまた | 2011年11月26日 (土) 23時24分
■かまた様
確かに今、『ピングドラム』の記事を書いていますが、たまたまですよ。
>自分は冠葉が両親とラーメン屋にいるシーンだけでもうクラクラ・・・
> 17話で見せた陽毬への愛情すらも疑ってしまいそうですよ。
そろそろ、謎解き編に入っていますから、いろいろ驚かされますよ。
そして、なんのかんの言って、冠葉がいちばん好きになっています。
>そういうシステムなんですね!初めて知りました。
特に、小さい役は主役級の人の事務所から、連れてきたりしてますよ。
投稿: 廣田恵介 | 2011年11月27日 (日) 09時19分