■1002 6年6ヵ月■
メールで、何人かの方から心配していただいたので、報告の意味も兼ね、廣田年亮被告に下った判決を書きます。
求刑懲役8年に対して、「執行猶予なし、懲役6年6ヵ月」です。――短い、と思った人がほとんどだと思います。
しかし、出所時に犯人は、81歳です。証人についた犯人の妹は「仕事を世話したい」などと言っていましたが、殺人の前科のある高齢者を、いったい、どこの誰が雇うのでしょう。
そもそも、犯人には莫大な借金があり、かつて居住していたマンションからも、金銭面のトラブルで、告訴されています。
うっかり、証人についてしまった親戚連中は、間違いなく、これらのトラブルに巻き込まれるでしょう。
(私が不覚にも笑ってしまったのは、犯人の妹に「被告を助けるとは、いっしょに暮らすという意味か」と聞いたときです。こちらの質問が終わらないうちに「いいえ違います!」と即答したので、「ああ、今度は自分が殺される危険性があるからな」と得心したものです)
鑑定医の証言によると、犯人はドメスティック・バイオレンスを振るいやすい性格だそうです。そんな危険人物を「助ける」と言ってしまった証人たちが、どんな目に合うかは、容易に想像がついてしまいます。
また、刑務所では、殺人犯にたいしては、かなりしつこいイジメがあるそうで、どちらにしても「生きてるだけで地獄」になるのは間違いないので、これはこれで妥当な判決という気がするのです。
犯人は、母の身体の障害、「介護疲れ」を責任逃れの言い訳にしていましたが、これは裁判所から却下されました。やっぱり、保身のためのウソは、すぐバレるのものです。
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しかし、裁判所から帰ってきたとき、私は久しぶりに、声を出して泣きました。
たぶん、こんなことで、犯人はかすり傷ひとつ負わず、たった2日間の公判と判決だけで、母の人生が、本当に終わってしまったのだ、という事実が、くやしくて。
母は、祖父とたいへん仲がよくて、実家に帰ると、いつも長く話し込んでいました。
また、早い頃に母親を亡くしていたので、継母のことは実名で呼び、「お母さん」というときは、必ず、生みの親のことを呼んでいるのでした。
いつだったか、母の子どものころの絵日記が出てきて、そこには、家族で買い物に行ったり、正月を祝った思い出が、たくさん書いてありました。
――彼女だって、幸せな人生を思いえがいていたはずです。
というか……そんな簡単なもんじゃないよ。こんなことになって、そんな簡単に片づけられるわけがない。
ただ、どこかで一区切りをつけなくてはならないと思うので、私とともに怒ってくださった方、母の死を悔やんでくれた方、何もいわずに花をくださった方たち、皆様に、心よりのお礼を、母とともに申し上げます。
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最後に、私らしく屈折したことを付け加えると、犯人の猟奇的な殺し方も気持ち悪いのですが、そこまで考えを至らせず、浅いところで「お世話になった兄、叔父さん、友人なのだから、助けるのが当然」とする「普通の人たち」のほうが、僕にはもっと怖い。
決して、深淵をのぞこうとしない、薄っぺらな倫理観で、簡単に物事をすまそうとする人たち。
そういう者たちは、「~するのが当然」などという条件反射で行動しているので、平然と矛盾することを言ったり、やったりします。
もし、私が殺人を犯した場合、私の友人たちは、誰ひとり、私を許さないはずです。それが、友だちというものではないでしょうか。
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コメント
気にかかっていました。
たった2日の公判でことの全てに決着がついてしまう。
短いような、長いような。
私も基本的には、屈折しているので「~するのが当然」という意見はありません。
声を出して泣く事は、大切な事だと思います。
男だからとか女だからとかなんて関係ない。
魂が悲しいときは、悲しい。
私はそう思います。
秋の空が、少しでも晴れやかな心で眺められる日が迎えられる事を願い続けます。
投稿: ナトー | 2011年10月 3日 (月) 23時35分
■ナトー様
もう、公判初日から、一週間も経過したんですよ。被告が控訴するなら、あと10日ほどです。
>私も基本的には、屈折しているので「~するのが当然」という意見はありません。
いまや、屈折しないで「まっすぐ」な人のほうが怖いです。そういう人たちの「善意」が、犯罪者をのさばらせていると確信できました。
私は、法廷での意見陳述のとき、少し泣きましたが、人前では泣きません。
仕事も、正月から、ちゃんとやっています。だのに、かつての仕事仲間が「廣田は仕事ができる状態ではない」と触れ回って、レギュラーの仕事がひとつ、消えてしまいました。
だから、そういう「罪のない人たち」が、この事件を利用していることの方が、よほど怖いように思います。
>秋の空が、少しでも晴れやかな心で眺められる日が迎えられる事を願い続けます。
ありがとうございます。
綺麗な場所で、何日か、ボーッと過ごしてみたいですね。
投稿: 廣田恵介 | 2011年10月 4日 (火) 00時43分