■0718 シュリンプ■
『マイマイ新子と千年の魔法』について、防府の同人誌「シュリンプ」に、原稿を書いた。
編集部の縄田さん、岡田さんから、とても熱い感想をいただいた。当初、この依頼には、かなり頭を悩ませた。一迅社から出たムック本をもって、『マイマイ新子』についての公の活動はおわりにしよう、と思っていたから。
防府に行く決意がつかないのは、なんとなく、自分にはその資格がないと思っているから。誰にも告げずに、コッソリと聖地巡礼したいという気持ちは、今も変わらない。
また、お世話になった方たちとは、お会いしたいと思っている。それは、最低限の礼儀だ。
基本的に、僕は常に自信がない。だから、隅っこでコソコソと生きているのが、向いている。
「シュリンプ」11号は、9月に発行予定。
■
昨夜は、お仕事で関東に出てこられているイラストレーター、綱本武雄さんと、お酒。(この日のために、一週間以上、禁酒したのである)
おじさん同士なら、それほど、食に気をつかうこともない。
綱本さんは、関西で、反原発デモに参加したぐらい、意識の高い方だ。マスクの寄付も、いただいた。
三鷹在住の音楽家、楯 直己さんとも、同じお店で飲んだのだが――今回の一件があってから、本当に、多くの方とお会いするようになった。顔を合わせないと、気がすまないというか。
そして僕は、いつもなら秘密にしておくような話でも、ぺろっと口にしてしまう。酔っているからではない。この人になら、恥をさらしても大丈夫、どう思われてもかまわない、という感じ。
綱本さんは、母のために、立派な花束を持ってきてくれた。
自分の身に何が起きたのか、それはいつも、他人が教えてくれる。僕は引きこもり体質で、ひとりですごす時間が長い。だけど、この件があってからは、本当に人と会うことが多くなった。
いつも思う。絵や音楽の才能のある人たち、アニメーションをつくれる人たちは、生きのびてほしい、と。文化を残しほしい、と。
いわき市や、川崎市で出会ったママさんたち、その子どもたちの顔は、忘れられない。
家族もなく、才能に恵まれなかった僕のような人間は、この事態に役立つべく、「死に場所」を探すべきだ。それが、もっとも恥の少ない道だと、僕には思える。
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三鷹駅で綱本さんとわかれ、僕は吉祥寺へ向かう。
駅を降りて、ガールズバーに直行する。僕にしては、それほど酔ってもいなかったので、女の子たちの所作、外で待っている客や、オーナーの挙動が気になる。
テーブルの上に出されたおつまみの中から、ハート形のクッキーを、女の子が見つける。「これ、当たりなんだよ! 食べてもいい?」
それが本当の本当に、幸運のきざしなら……どんなにラッキーだろうな、と僕は思う。
酔客が、女の子にからんでいる。「普通、そんなシャツ着ないだろ? どこで買ったんだよ」と、なかなかしつこい。
彼がトイレに立ったとき、その子に「あんまり、気にしちゃダメだよ」と耳打ちしたら、「だいじょうぶ、本当は、いい人だから」。
トイレから戻った彼と話してみたら、確かに、いいヤツだった。住所と電話番号とメアドをぐちゃぐちゃの字で書いて、僕に渡す。それを、さっきの女の子が、笑いながら見ている。
いま見ても、彼の書いたメモは、すばらしい。芸術的だ。
――ただ眠るだけの夜は、つまらないなあと、いつも思う。
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コメント
いつも「地元記者(ナ)」というペンネームで書いていますが、今回は詩誌『シュリンプ』についてのことだったので、本名で……。
この雑誌の10号に一度『マイマイ新子と千年の魔法』にまつわる旅行記を書かせていただいたのに続いて、11号では特集まで組まれることになり、1号のみ編集に携わらせていただくことになりました。
あらためて、力強い作品をありがとうございました。今作に込められた思いは必ずや読者を動かすものと確信しています。
『マイマイ新子と千年の魔法』の作品の強度と、その影響はもちろんのこと、副産物として知的財産によるまちづくりに脚光があたるようになりました。先日はついにコスプレイベント主催団体と提携して、まちなかをコスプレイヤーが闊歩するかつてない事件が起こり、おおむね大きな好評をもって迎えられました。来週も第2弾が行われるほか、大阪芸術大学で映画・アニメ制作を学ぶ女子学生の作品展が企画されているところです。
廣田さんに以前も申し上げたことがありますが、『マイマイ新子と千年の魔法』の舞台巡りももちろん、いつか知的財産の創造のプロフェッショナルとして防府にお招きして若い世代あるいは経営者の前で語っていただくことはできないかと思っております。
投稿: 縄田陽介 | 2011年7月18日 (月) 23時47分
■縄田陽介様
この度は、本当にお世話になりました。私の文章より、縄田さんの感想メールのほうが重厚なので、お返事するのに、気後れしてしまいました。
>『マイマイ新子と千年の魔法』の作品の強度と、その影響はもちろんのこと、副産物として知的財産によるまちづくりに脚光があたるようになりました。
それは、何よりです。
この作品に出会うまで、防府という地名すら、知りませんでした。文化も、東京中心主義から脱するべきだと思います。
日記に登場してもらった綱本武雄さんから聞いたのですが、京都なんて、本当に文化レベルが高いんですよね。
コスプレでもアニメでも、どんどんやるべきだと思います。東京だけ、というのは不自然です。
『新子』を見て、「日本って、きれいだなあ」と心から思いましたしね。
>いつか知的財産の創造のプロフェッショナルとして防府にお招きして若い世代あるいは経営者の前で語っていただくことはできないかと思っております。
マッドハウスは、だめなんでしょうか(笑)。
いま、いちばん防府と縁の深いアニメ会社だと思うのですが。スタジオも、どんどん地方に進出していくべきですね。特に、西日本へ。
投稿: 廣田恵介 | 2011年7月19日 (火) 00時49分