■0613 七瀬かすみ■
先日のキャバクラでは、しんみりしたムードになりたくないから、母のことは黙っているつもりだった。でも、うっかり喋っちゃったみたい。メールで「その話なら、聞いたよ」と。
「今度、お好み焼き、食べにいこうね!」って、もうそれ、一年以上前から言われてるんだよね。
今、やること多くて、それどころじゃないよ。忙しくなくて、金だけあれば(離婚から3年ぐらいは、そんな夢のような日々があったのです)、だらしなく通うんだろうけどさ。
そんな俗な世界で、だらしのない、夜遊び中年のままでいられたらなあ……。
世界は、変わってしまったね。
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声優の川上とも子さんが、41歳という若さで、亡くなった。
アニメの制作工程の中で、声優がアフレコするのは、(比較的)ラスト近くに来るわけで、だから、声優さんを重視してなかったのね。
だけど、川上さんが亡くなったことは、三日ぐらい経ったのに、まだ、胸に引っかかっている。 ……いや、センスもへったくれもない絵でしょ?
分かってますよ。恋愛シミュレーションゲーム『トゥルーラブストーリー2』です。
僕が、ライターになるかならないか、30歳こえてからプレイしていたゲームだ。
この「かすみ」というキャラが、おさななじみとして、最初に出てくる。だから、たいていの人は、まず、かすみを好きになる。
彼女の声が、川上とも子さんだった。『少女革命ウテナ』と同じだ声と知ったときは、ショックだったよ。
あのころは、彼女もいなくてね。いなくても、いいと思っていた。一人で生きていくんだって。そういう時期も、人生には必要だ。
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七瀬かすみは、球技が苦手で、高校生になっても、子どもじみたモノが好き。
「そんなの、ただの設定じゃん。実在するわけじゃないじゃん」。……分かるよ。でも、その大きなウソ、ドンくさい絵に「体温」を加えるのが、声優なんです。
この頃は、いろんな恋愛シミュレーションを買っていたから、声優の名前だけは、どんどん覚えたよ。声優さんは、みんな優秀だと思った。昔は、若い声優なんて、ヘタクソに決まっていたから。
川上さんが亡くなったのは、まるで、七瀬かすみが死んじゃったみたいでね。だから、引っかかるんだと思う。
もちろん、僕の初恋の人は、高校時代に、ちゃんといた。その頃の思い出の密度って、ゲームには入りきらないほど、ヘビーですよ。一日が、50時間ぐらいに感じられた。
でも、どっちが上とかホンモノとかじゃなくて、僕らは、複数のリアリティを生きているんだと思う。
何十回もループする『トゥルーラブストーリー2』の中をさまようことは、空しいようでいて、柔らかくて、暖かくて、例えていうなら、夢の中に似ていた。
そういえば、あの頃は、よく恋愛の夢を見ていた。やはり、多重的なリアリティを生きていたのだと思う。
僕は、夢の中で、よく泣いていた。
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人の死というのは、決して一種類ではない。「ご冥福をお祈りします」は、おそらく、生者が死者を遠ざけるために考えた、呪文のようなもの。
6月11日に、ツイッターで、みんなが「黙祷」とツイートしていたのも、同じことだと思う。死を遠ざけて、生に影響を与えない知恵もあるのだ。
死は、断絶でも消滅でもない。死を、生の中で、どう機能させるのか。それは、必要だと感じた人が、おのおの考えればいいこと。
死を受容すれば、人間は強くなれる。僕は、よく知っている。
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