■0610 いわき市その5■
本日で、福島県いわき市のレポートは、いちおう終了です。
昨日から、私はツイッターで、以前のようにアニメの話題を、書くようになりました。昨日のNさんの話は、書くのが辛かったので、その反動なのかも知れません。
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Nさん宅を辞した、私と水先案内人のS氏は、中部大学の武田邦彦教授の講演に行くため、「グランパルティいわき」という中世ヨーロッパ風のホテルへ、向かいました。どうですか、異様なほど大仰な建物でしょう? そして、整理券をもらうために私たちが並んだ頃には、もう300人以上が集まっていたのです。
そして、300人のうち、250人は、マスクを着用していたと思います。それだけ、危機意識の高い人たちが、市の内外から集まってきていた、ということでしょう。
同じ時刻、武田教授は、郷ヶ丘幼稚園主催の、もう少し小規模な講演に、出ておられたはずです。
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さて、肝心の講演内容は、原発施設の構造がどうかとかいうより、「いわき市で、今、そしてこれから、放射能とどう戦っていくのか」に絞られていました。
私なりに、印象に残ったキーワードをもとに、要約してみます。
福島第一から噴出した放射性物質は、ほぼ出尽くしている。今、高空を舞っているような放射性物質は、ほとんどない。従って、マンションの4階以上の人は、心配しなくていい(一階の人は要注意)。
放射性物質が宙を飛んでいる時期は終わったので、雨には、それほど注意を払わなくてよい。逆に、水溜りには、地面に落ちた放射性物質が集まっているので、近づかぬこと(雨どいの放射線量が高いのも、同様の理由による)。
放射性物質とは、「粉」である。ウィルスより大きな粉なので、マスクで防げる。風の強い日は、「粉」が舞うので、必ずマスクをすること。
また、「粉」であるからには、道路の側溝など、ほこりの溜まりやすいところに集まる。子ども達を近づけぬこと。
もうひとつ。土壌に落ちた「粉」はどうなるか。時間をかけて、地面に染みていく。
まだ表土に近いところにあるうちに、除去してしまえば、線量は大幅に下がる。つまり、汚くなったところは、どんどん綺麗にすべき。
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講演中、何度も地震が起きました。しかし、会場からは「おやっ」とか「あらっ」とか声が上がる程度。
武田教授も、「地震のようですが……つづけましょうか」とニッコリ。後から聞いた話ですが、この方は、講演と講演の間の数十分の間に、郷ヶ丘幼稚園へ行って、実地調査してきたそうです。
また、会場からの質問者があまりに多いため、「あとで、私のところへ各自で聞きに来てもいいですよ」と提案していました。
この年齢をかえりみぬタフさにも、おおいに元気づけられました。
福島県内の方たちからの質問は、さすがに切実なものでした。農家の方も、大勢いらっしゃいます。娘さんを関東に避難させているが、「もはや精神的な限界に来ている」との相談も……。
武田教授のスタンスは、こうです。「子供は、教師や学校の所有物ではない」「まずは自衛する努力を。お金が必要なら、国や自治体を遠慮なく利用する」。
私の解釈も入っているとは思いますが、以上のように受け取りました。
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雨が降る中、私はS氏にホテルまで送ってもらい、その日は飲まずに、部屋で「NHKスペシャル」と「ETV特集」を見ました。
ちょうど、いわき市のホットスポットのことを、放映していました。そのホテルから、10キロほど先のことです。
翌朝は、さわやかに晴れわたりました。
電話で約束したとおり、郷ヶ丘幼稚園に、マスクを届けに行きました。たまたま、S氏が、実家から持ってきたミネラル・ウォーターも、受け取っていただけました。
対応に出てくれた先生は、武田教授から、ほぼ同様の話を聞いてらしたので、園庭の除染計画の話を、生き生きとしてくださいました。
園内は、すでに線量計で各所を計ってあり、毎朝拭いて、「粉」を取り除いているそうです。
遅れて、登園してきた親子が、廊下を走り抜けます。親子とも、マスクをしていました。
園内は除染してあるので、子ども達も先生も、裸足です。
私たちは、何箱も運んできたマスクを、すっかり空にして、東京へ向かいました。
「汚れたものは、綺麗にできるのだ」。私は、高い線量が検出されたら、そこには住めないと思っていました。住めないところも、もちろん、あります。
しかし、ほとんどの場所は、まだ何とかなるのです。東京でも、ホットスポットが見つかりつつありますね。さて、どうしますか? 福島県では、市民がボランティアで除染をはじめています。
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明日11日は、震災および原発事故(私は原発「事件」と呼びたいが)から、3ケ月です。
日本全国で、デモが開催されます。
私の興味は、「脱原発」という理念から、「地元を綺麗にする」という行動へと移りました。ですから、(かなり迷いましたが)デモには参加しません。
私には、妻も子どもも、ありません。両親は、正月にああなってしまいましたので、守るべき家族もいません。
私の母は、風であり、空気であり、花であり、花の中を流れる水です。それらを綺麗にしてから、私は死にたい。
そのために、私は、ありとあらゆる手段を行使することになりましょう。私の人生に降りかかったアレコレが、ようやく一本の矢となったのです。
全国からマスクを寄付してくださった方、ここには載せきれませんでしたが、取材に答えてくださった多くの皆さん、ありがとうございました。
福島へは、もう一度、行くと思います。あそこに流れる水は、私の家の前を流れる水と、つながっている。ほかの方は分かりませんが、私の生きている世界は、たったひとつなのです。分けられない。
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コメント
いろいろと判ったことがあって良かったです。
スパリゾートハワイアンズをはじめ、いわきが好きな娘を自衛すればまた連れて行っても大丈夫そうな感じが判って大変参考になりました。
僕も、近々いわきに行かなければならなさそうなので、とりあえずマスクだけはちゃんと持っていこうかと思います。
投稿: イシイマコト | 2011年6月11日 (土) 02時24分
■イシイマコト様
まだまだ、細かいことは書ききれないのですが、ざっと参考にしてください。
娘さんは……秋に、スパリゾートハワイアンズが再開してからの方が、いいと思います。
>僕も、近々いわきに行かなければならなさそうなので
おー、そうですか!
マスクはねえ……東京都内でも、もう必須アイテムですね。ぶっちゃけ、いわきの方が、線量が低かったりしますんで。
あっ、いわき駅前に、いいプラモ屋があるので、教えますよ(笑)
投稿: 廣田恵介 | 2011年6月11日 (土) 02時35分
ずっと読ませていただいてました。ありがとうございました。
長い時間コメント欄と向かってるんですが、文章がまとまらないので書かずにおきます。
水も空気も世界中でつながっているというのがいつも頭の中にはあります。
少し話は違いますが、安全基準内の農薬とか食品添加物とか、恐れて避けながらも時には妥協して受け入れて長いこと暮らしてきた自分をちょっと振り返っているところです。
安全基準値内だとされても放射性物質が検出されてしまったものには手を出したくないけれど、農薬や添加物のように、大多数があたりまえのように受け入れたとしたら、時には自分も受け入れてしまうということではないか、と…。
投稿: kyasリン | 2011年6月11日 (土) 02時43分
あ、いかん。
廣田さんがなんだか明るくなっているのに暗くなってる自分がいる…
投稿: kyasリン | 2011年6月11日 (土) 02時45分
■kyasリン様
いえ、こうして振り返ってみると、やはり、キツい旅ではあったんです。帰り道は、目的が見えたから、明るくなれただけであって。
>安全基準内の農薬とか食品添加物とか、恐れて避けながらも時には妥協して受け入れて長いこと暮らしてきた自分
僕も、まったく同じですよ。マクドナルドは嫌いだけど、牛丼なんかは、今でも食べます。
ただ、サラダは産地不明なので、ほとんど手をつけません。申し訳ないけど、静岡県がああなので、日本茶も買いません。
>大多数があたりまえのように受け入れたとしたら
うーん……いま、何十万人(何百、何千かな)が、当たり前に受け入れてますよね?
僕は、そういう人たちに、いちいち注意はしません。子どもを地面に座らせている親を見ても、ほっときます。
だって、彼らは関心ないんですもん。
とても、救っていられません。
投稿: 廣田恵介 | 2011年6月11日 (土) 03時10分