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2011年6月 9日 (木)

■0609 いわき市その4■

いわき市内を、車で流してもらって、何十回も目にしたのが、このステッカーです。
タクシーの窓ガラスにも貼ってあったし、たいていの飲食店に、貼ってありました。
Iwakai_045二日目に取材した、二児の母親のNさんは、「がんばっぺ、と言われても、これ以上はがんばれない」と笑っていました。

Nさんは、市内に仕事場があるそうなのですが、たまたま、その場所が、原発から31~2キロ地点だったそうです。だから、ちょっと手前で、封鎖されてしまった。

会社としては「必ず出社しろ」とは言えず、「来たくなければ、よその営業所に通ってもいいよ」と通達したそうです。
しかし、地震で休業したぶん(会社の機器が壊れたとか)は補償されても、原発で休んだ分は、補償されません。
「これだけの思いしているのに、どうして原発だけ特別なの?」と、Nさんは困ったように笑いました。


僕は、こんな歳をして、気ままな一人暮らし(しかも自由業)なので、「普通」という感覚が狂います。
Nさんの自宅は、住宅街の中にあり、日曜日なので、近所の子ども達が一輪車などで、遊んでいました。「マスクなしで大丈夫なのかな」と、ちょっと思ってしまいます。
その感覚が、あるべき「普通」なのか、情報過多によって偏向された「普通」なのか、判断に迷います。

この日は、Nさんの長女(中学2年生)が、家で宿題をしていました。インタビューというか、雑談だったのですが、宿題の手を止めて、テーブルに座ってくれました。
学校での様子を聞くと、「誰も原発や放射能の話をしない」と。部活は文系だそうですが、暑かったら、部室の窓をあけてしまう。

ただ、娘さんはボーッとしているわけではなく(笑)、給食のデザートに「福島産」と書かれていたのを見逃さなかったそうです。「えー?とか思いながら食べたけど、他の人は、産地なんて見てなかった」。
いったい、何が普通なのか、僕には分からない。ただ、東京では、均質にならされている(隠されている)ものが、福島では、むき出しにされているような感じはありました。


せっかくなので、学校生活の話をつづけます。
Nさんの下のお子さんは小学生なのですが、学校では線量測定をしているそうです。校舎の中は、0.05ぐらいなので、安全。プールまわりは、一時期、近づけないほど高かった(0.4~0.5)が、今はもう少し低め。
問題の校庭は、0.21ぐらい。――僕だったら、マスクしますね。その前の夜に泊まったホテル前が、0.22で「うわ、高いなあ」とビビったほどですから。

ところが、学校は体育の時間は「半そで、半ズボンになりなさい、マスクを外しなさい」と指示(命令?)するそうです。
Nさんは「小学校は45分授業、中学校は50分授業」、つまり無防備状態になるのは、一時間以内だから、無理やり割り切っているそうです。苦しそうでしたね。

牛乳についても、福島産だそうです。「この子たちが20~30年後、奇形児を生んでしまった場合、あなた方は補償してくれるの?と言いたい」と、Nさん。
ここで、読んでいる方たちに言いたいが、「福島の話でしょ」と切り捨てないでほしい。関東の学校でも、福島産の牛乳は出てますよ。では、スーパーで売っている牛乳は? ヨーグルトは? 福島の問題は、東日本全体の問題。


食生活の話を、もう少し。
Nさんも、もちろん、買い物のときは産地を気にされるそうです。「福島県産」だけでなく、「○○町の□□さんが作りました」と細かく、表示が入っている。
そうすると、同じ痛みを分かち合った人間として、「三回に一回は買ってあげようか」と、情がわいてしまうんだそうです。
「だけど、私が東京に住んでいたら、同じように思ったかどうかは、分からない」。

東京の人は、心当たりがあるでしょう。僕だって、そうだ。外食しても、野菜は残します。
東京は特別だ、安全であるべきだ、という40年間の「信念」を、いまだ打ち消せないでいる。

同行していたS氏が、Nさんのご自宅の周りを、計測しました。東京よりも、線量が低い。
だけど、Nさんは「洗濯物は、外に干せない」と不安な顔です。本当は、東京の人間こそ、不安がるべきなのに。


昨日の、Gさんの塾へのお礼と同じように、Nさんにもマスクを渡しました。
「マスクは毎日使うものなので、助かります」と聞いたので、東京に帰ってから、追加で送っておきました(寄付いただいた方、あらためてありがとうございました)。

福島県内では、他の市へ避難された方が、大勢います。Nさんのお知り合いも、他市へ行かれたそうですが、そのころは検査しないと、移れなかった。
全身を検査します。すると、マスクのところだけ、すごく反応したそうです。鼻や口の周りに、放射性物質が集まっていたということ。――皆さん、風の強い日だけでも、マスクをしましょう。

Nさんは、終始、にこやかに対応してくださいました。昨夜の「東京どもムカツク!」についても、「つい、ひがんじゃうところがあるんですよ」とフォローしてくださいました。

その帰り道、ジャージを着た部活帰りの中学生たちを、見かけました。草むらに近いところを歩いていたのに、マスクをしていませんでした。あの光景が、頭を離れない。
危険だ、無神経だと言いたいんじゃない。何が普通なのか、混乱するんです。

その夜は、武田邦彦教授の講演に行きました(たまたま、いわき市で開催)。
明日は、その話と、いわき行きの雑感を記したいと思います。

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