■0412 母■
亡き母のマンションに用があり、午後からひとりで行ってきた。震災後、2度目の訪問になる。
今まで、話したい人にしか話してこなかった。「この人なら分かってくれるかな」と話してみたら、「そんな忌まわしい話をするな」という顔をされたこともある。
もう、はっきり書いてしまおう。私の母は、今年の元旦に、父に刺殺されました。
3ヶ月かけて、ようやく父の起訴が決定したので、私は恐怖と苦痛の中で命を散らした母のために、戦います。
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でも、正月以降、俺がサボったりせず、粛々と仕事をこなしてきたことを、思い出してほしいよ。「メイキング・オブ・マイマイ新子と千年の魔法」なんて、担当にも何も言わず、何事もなかったかのように校了しましたからね。
残念ながら、この事情を知りつつも、俺を放逐した雑誌もありました。
でも、代わりに「オトナアニメ」さんが重宝してくれて、いっぱい原稿を書かせてもらっている。「アニメ!アニメ!」さんには、行くあてのないインタビュー記事を拾っていただいたし……でもそれは、俺の原稿が早いからであって、同情ではないですよ。話してないもん。
1月は、警察の事情聴取、犬の引きとり手探し、何よりも母の葬儀、やることがいっぱいあった。検察に呼ばれたのは、2月に入るか入らないかの頃だと思う。
だから、落ち込んでられなかった。朝8時には起きて、さっさと風呂に入って、駅前でそばを食って警察に行って……泣いていたのは、最初の三日ぐらいだったと思う。
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警察で、はっきり言われたよ。「あなたは被害者遺族である。それと同時に、加害者の息子だ」って。遺族を救う制度はたくさんあるけど、その適用を受けられない可能性がある。
それは、本当に困ったときでいいだろう。今はとにかく、普通に仕事をして、友だちと酒を飲み――キャバクラは自粛していたけどね。最近は、たまに行くようになったね。
よく食べ、よく笑うこと。母は、湿っぽいのは嫌いなはずだ。
俺にとって、世界は2度、変わった。母を、凶刃から救えなかった自分を責めた。決して自分が悪いんじゃない、と合理化しようと努めた。
今だから言えるんだけど、罪悪感は、たぶん失ってはいけない。罪悪感は、行動を促してくれます。何が正しく、何が間違っているのか、その判断を自分に強いてくれます。激しい怒りと慈しみの両方を、同時に抱かせてくれます。
これからも、母のことはポツポツと書くでしょう。明日は、葬儀に来てくれた女友達と、ちょっと遅い花見なので、ブログの更新はお休み予定。2人とも、昼間から呑む気、満々なので。
花見は、中止になりました。
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コメント
何書いて良いのかわからないんですが
すごく驚いてしまいました。
そんななか2月のワンフェスも来て頂いたのですね。
それに加えての震災の中、酷い言葉を書いてしまった事をあらためてお詫びします。
いずれどっかで呑みませんか、もちろん東京で。
投稿: Miya-P | 2011年4月12日 (火) 22時43分
■Miya-P様
僕は、前より人と会って話すのが、好きになりました。そういう楽しい気分で、ワンフェスにも行ったんですよ。
それと、謝らないでください。僕が憎むべき相手は、他にいっぱいいるんですから(笑)
父の罪悪をさておいて、ずけずけ物を言ってくる弁護士とかね。
>いずれどっかで呑みませんか、もちろん東京で。
ぜひぜひ。今後とも、よろしくお願いします。
投稿: 廣田恵介 | 2011年4月12日 (火) 22時56分
そうだったのですね。
今までお母様のことがブログに出てきても、そのことについて、簡単にコメントは、ようできなかったのですが、今回ばかりは、言葉もまとまらないのに書き込ませてください。
いつも、お母様へのストレートな思いを感じていました。そして、亡くなられたことはつらいことだけれども、そのことを背負った廣田さんの強くあろうとする気持ちを感じておりました。
わたしが廣田さんをイメージするとき、なぜか、いつも(お会いしたこともないのですが)、飲んではるか、立ってらっしゃる。
そして、しっかりと歩かはると思っております。
投稿: ユキサダ | 2011年4月12日 (火) 23時44分
■ユキサダ様
ブログで公言できないのは、すごく辛かったです。怒りが煮えたぎっているのに、実名だし、名前で仕事してるし、何か影響あるんじゃないか……と。
しかし今日、父の雇った弁護士に、母の殺害を「それはそれ」と言われて、怒鳴りましたね。もう、黙っている必要はないんだと思いました。
私が、何事もなかったかのように仕事して、笑っていられるのは、そうしなければ、母の死の意味がないと思えたからです。
今回は、2万人もの人たちが理不尽な亡くなり方をしました。それまでの私は「どうして俺だけが」という気持ちが、とても強かったのです。
震災のことだけでなく、もっと辛い思いをしている方は、大勢いるんですよね。だけど、その方たちも、しっかり2本の足で歩いていると思うんです。
我々が元気に生きねばならないのは、死者のためです。
投稿: 廣田恵介 | 2011年4月13日 (水) 00時20分
心のこもった祭壇を拝ませていただく約束が実現するのはいつになるかわからないけど、私はずっと覚えていますよ。
桜の花びらを浴びる花見もいいですね。
投稿: kyasリン | 2011年4月13日 (水) 00時43分
■kyasリン様
ありがとうございます。我が家で、最も震災のダメージを受けたのは、母の祭壇でした。
次の土曜日、春バージョンに改装するため、友だちが来てくれます。
>桜の花びらを浴びる花見もいいですね。
花見は、中止になりました(笑)
ひとりで、玉川上水を散歩してきます。
投稿: 廣田恵介 | 2011年4月13日 (水) 00時58分
事情を知らず、僕も判ったようなことをメッセージで書いてすいませんでした。
正直、どんな言葉をかけていいか判りません。
ただ、僕にできるのは時間を作って飲んで、お互い愚痴ることくらいかなと思ってます。以前約束したとおり、ぜひ近々飲みましょう。
お会いできるのを楽しみにしてます。
また、都合が合えばスーフェスにも顔を出しますね。
投稿: イシイマコト | 2011年4月13日 (水) 01時39分
■イシイマコト様
ああ、イシイさんには言ってなかったか……俺はてっきり、話した気になってました。すみません。
>正直、どんな言葉をかけていいか判りません。
信頼のおける方は、皆さん、そう仰いますよ。そして、ありがたいことに「飲みましょう」と言ってくださいます。
この事態の難しさは、「母が死んで悲しい」だけではなく、「父が憎い」ことです。
「実の父親でしょう、助けたくないんですか」と説教ぎみに言う弁護士は、容赦なく怒鳴りつけます。
両親の寝室には、まだ大量の血痕が残っています。あの部屋に入ったら、そんな事は言えなくなりますよ。
>また、都合が合えばスーフェスにも顔を出しますね。
ぜひぜひ。ダラ~ッと過ごしているので、話しに来てください。
投稿: 廣田恵介 | 2011年4月13日 (水) 01時51分
心よりお悔やみ申し上げます。
今さらで大変申し訳ありません。
廣田さんのテキストを追っかけながら、
日にちを刻むようになったエントリのタイトルや
震災後1日も欠かさない更新、
日々の行動に並々ならぬ気迫を感じていました。
書き込んでおられる皆さんのような
思いやりに満ちた言葉が思いつかず、心苦しい思いです。
ただ、これからも毎日見に来ますので
部外者ですが見届けさせてください。
投稿: 綱本武雄 | 2011年4月13日 (水) 02時04分
■綱本武雄様
誠に、ありがとうございます。
常に、迷い・迷い・迷い、恥・恥・恥で書きつづってきました。それでも、こうして追ってくださる方がいて、やっと救われた思いです。
震災後、ある友人が「みんなブログを止めてしまったので、誰かひとりでも毎日更新してほしい」と言っていたので、「じゃあ、やってみようか」と思った次第です。
日付のことまで気がついていただき、本当に嬉しいです。
>書き込んでおられる皆さんのような
>思いやりに満ちた言葉が思いつかず、心苦しい思いです。
いえいえ、とんでもないですよ。
こうして毎日見に来ていただけるなんて、それだけで大きな励みになります。
今日はもう、事件のこと書いて、と~っても楽になりました。こんな暗い話題にまで付き合っていただき、本当にありがとうございます。
まだまだ迷走していきますが、何卒よろしくお願いします。
投稿: 廣田恵介 | 2011年4月13日 (水) 02時37分
大変な時にいろいろと
ご協力いただいてありがとうございます。
何を書くのか迷ったのですが、
今後ともぜひ一緒にお仕事を
させていただければと思います。
投稿: 林信行 | 2011年4月13日 (水) 10時25分
>最も震災のダメージを受けたのは、母の祭壇でした。
ビンとか割れた?まだ売ってるかなあ〜あれは可愛いもの。
春のコーデに色合いがマッチするのでできれば欲しいんだよね〜
楽しみにしてるよ〜
投稿: ごんちゃん | 2011年4月13日 (水) 10時54分
■林信行さま
私こそ、林さんに救われたと感謝しております。あの精神状態で仕事を失っていたら、どうにかなっていたと思います。
仕事に対する向上心は、前より強くなりました。行き届かない部分もあるかと思いますが、何卒よろしくお願いします。
投稿: 廣田恵介 | 2011年4月13日 (水) 10時56分
■ごんちゃん様
ビンは割れてないけど、花瓶がすべて倒れてしまったので、土や水が大量にこぼれてしまった。
部屋の中も片づけないと……。
投稿: 廣田恵介 | 2011年4月13日 (水) 10時58分
小島ふみ
今 こうして恵介さんが気持ちをストレートに綴られる事、とても大切だと思います。
どうしょうも無い悲しみや痛みを1人で背負いこんではいけません。
同じように感じる事は出来ないけれど少しだけ共有し分け合う事は出来る筈です。
どうか無理をせず、痛い時は痛い、苦しい時は苦しいと言って下さい。
恵介さんが良い仕事をし、美味しいご飯を食べ、美味しいお酒を呑み、綺麗な花や女の子を愛でる。そして、長生きする事が何よりのママへの供養です。
ささやかなエールを贈ります
マダム
投稿: 小島ふみ(マダム) | 2011年4月13日 (水) 11時45分
■小島ふみ様
以前にメールを下さった方ですよね。確か、父の歌のレッスンの先生かと記憶します。
失礼ながら、あなたの美辞麗句には、大変な違和感を感じておりました。
あなたは、人殺しに歌を教えていたわけですよね。私も人殺しと酒を飲んだり、父親として仲良くしていたわけです。いずれ、母を殺す男とね。
「あの時、どうにか出来なかったのか」と、今でも後悔します。あなたは、そうは思わないようだが、私は悔やむ。
悲しむのと同じぐらい、私は怒り狂っている。
>そして、長生きする事が何よりのママへの供養です。
日本中の原発がどうなるか分からない今、私は長生きできないだろうし、必要とあらば、命を差し出します。
いまだに命乞いしている父とは、違う。
そして、何よりの母への供養、それは父親を死刑台へ送り込むことです。それ以外に何がありますか?
ネットで記事を見たなら、母の胸に包丁が2本も突き刺さっていた事はご存知のはず。綺麗事ばかり言わないでください。
投稿: 廣田恵介 | 2011年4月13日 (水) 12時23分
皆さんの書き込みを読んで、一人だけ能天気でちょっとだけ恥ずかしくなってしまった...でも、私、決めたんです!これからの日本を背負って行く、(まだまだ自分も)子供達に「
地球人として自覚」のある子、たくましい子供に育てていくことが最大の使命なのね。同時にいまよりはマシな環境を残したいと...そのために頑張ろうと思うんです。それが私たち大人(母親)の使命であり、無くなった多くの方々への供養、自分自身の生き甲斐にもなるのだと思う今日この頃なのです。
投稿: ごんちゃん | 2011年4月13日 (水) 13時09分
■ごんちゃん様
いや、あなたは全て分かってくれているから、能天気でもいい(笑)
この前、友だちと電話で話したんだけど、「俺らは子供はいないけど、子孫のために何かすべきだよ」と。これぐらいの年齢になれば、それは当然、考えるわけだよね。
自分のことしか考えられないヤツは、やっぱり半人前なんだ。困ったことに、ジジイは自分の利益しか考えないので、40~50代がやるしかないんだよ。
投稿: 廣田恵介 | 2011年4月13日 (水) 13時26分
一瞬、唖然としましたが
どうにもこの4ヶ月近く、blogの中身にほつれというか
齟齬のようなものを感じていたのは
そういう事情だったのか、と得心しました。
僕のような若輩者にかけられる言葉はないのですが
今後とも仕事を一緒にできれば
そして
また朝まで散々話をしながら酔えれば。
投稿: 高久裕輝 | 2011年4月14日 (木) 01時02分
■高久裕輝さま
>どうにもこの4ヶ月近く、blogの中身にほつれというか
>齟齬のようなものを感じていたのは
さすが、よく読んでますね……。
しかし、俺は、あなたの電話でハッと目が覚めたんですよ。発売まで10日しかないのに「原稿、お願いします」と言われて(笑)
あれも無くし、これも無くした俺に、目的を与えてくれた。
しかも、(予想どおり叩かれながらも)いい仕事にしてくれた。とても感謝しています。
>今後とも仕事を一緒にできれば
ぜひとも。あれで終わったら、俺は「マクロスの敵」で終わってしまう(笑)
また、無茶ぶりな注文を待っています。
投稿: 廣田恵介 | 2011年4月14日 (木) 01時22分