■日曜夜、某私鉄沿線駅前■
日曜の夜、三鷹駅。部活の練習がえりの女子中学生たち。バス停には、長い列ができている。遊びであれ用事であれ、誰もが休日の一日をかけて何かを終わらせ、家路につく。日曜の夜は、いつも必ず、何かが終わっていく。
そんな終焉の気分のなか、僕はS監督のインタビューのために、混みあったバスに乗り込む。
S監督の取材は、いつだって宴会の片隅を間借りして……という感じだった。
今日だけは、取材を申し込んだルートが、僕から直だったせいか、編集と、あとはS監督だけ。3人だ。
日曜夜の気分のせいか、「今日で、この監督と話すのも、最後だな」という気がする。一人の監督に取材すると、「廣田サン、あの雑誌でもインタビューしてたじゃない」という感じで、同じ人に何度か会うことがある。
だからまあ、依頼がくれば、やるんだろうけどね。
寂しいのは、広い居酒屋に、3人でポツンと座っていたせいかも知れない。監督はビール、僕らはウーロン茶だ。監督お一人に飲ませるのは、もちろん心苦しくはある。「この人には、嫌な思いをして欲しくないな」と、妙にそんなことを思わせる人なんだ。
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もう十分にお話は聞けたかな、と思ったころ、ビールを頼んだ。それから先は、天国のように楽しかったよ。
監督も、「ビールやめて、焼酎にしようかな」。そうこなくっちゃ。
「監督、○○○○のメイキングDVD、ご覧になりました?」「ああ、本編は持ってないけど、メイキングだけは買ったよ」。それ、僕と同じだよ(笑)。あれは、本編よりメイキングのほうが面白い。
「俺は、□□監督の作品というより、□□監督の発言が好きだから、著書はぜんぶ買ってあるよ」。ああ、それも同じだ。「アニメ業界」をこんな楽しみ方をしているのは、自分だけかと思っていた。
だから、こんなに楽しいから、今夜が最後だって気がしていたんだ。楽しいことって、ずっとは続かないものだから。
トイレに行って、店を出て、オススメの本をあらためて紹介して、ほんの30秒ぐらい、編集と帰り道の順路を話していると、S監督は消えていた。
「あれ、監督は?」と、編集もキョトンとしている。僕は、閑散とした駅の周辺を見渡した。「スタジオに戻られたか、タクシーでも拾って帰られたんだろうね」。
でも本当は、僕らなんかと仲良くしすぎるのは良ろしくない、と監督はご存知なのだと思う。
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格別に寂しい日曜夜のバスに乗って、帰途についた。
僕らのような仕事をしている人間と、取材相手との関係は、なかなか難しい。友達になりすぎてはいけない。馴れ合いすぎてはイカンのだ。
どこでどう屈折したのか、一人は嫌いじゃない。孤独を楽しめるのは、ナルシストだからかも知れない。でも、それで良かったんだよな、とたまに思う。
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