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2010年11月 7日 (日)

■海月姫の原作を■

PCが不調で、完成した原稿を送れぬままに、ケーブルで『おくりびと』。
アカデミー賞受賞作だからといって、これを日本映画の最高水準だとは思って欲しくない。広末涼子の泣きの芝居はよかったかな。涙を流さず、鼻だけ赤くする。上手かった。
どんな映画でも、女優に罪はない。キャスティングしたほうが悪い。


アニメが放映終了してから……と思っていたのだが、『海月姫』の原作漫画を買ってしまった。
Kuragehimeテレビの「痛さ」は薄く、はるかにソフトな感触で、ギャグにも素直に笑えるのだが、どういうわけか、涙が出てきた。

男も女も、肉体という輪郭を与えられているだけで、本質は変わらないんじゃないかと思えてくる。「男という輪郭」を与えられた蔵之介は、女装というスキンをまとうことによって、その限界をこえようとする。さらに、月海を「女装」させることで、見えづらくなっていた「女としての輪郭」を鮮明にしてしまう。

このマンガにおける「女装」は、単なるフェティシズムでも趣味でもなく、拡張現実に近い。男であろうが女であろうが、それぞれの個体の持つポテンシャルを(現実以上に)拡げてしまう。パワード・スーツみたいなものだ。衣類はもちろん、メイクもウィッグも着脱可能で、いつでも拡張された「女らしさ」を脱ぎすてることが出来るのだから。

ただ、だからこそ――クラゲの飼育が好きで、クラゲの絵を描くのが好きなら、無理して「女らしさ」なんてまとわなくていいんじゃないか?と思える。
自分ひとりぶんの楽園を維持するのに、せいいっぱいの人だっているんだよ。だから、僕は泣いたんだ。


ところで、原作漫画では「腐女子」と書かれている部分が、アニメでは「尼~ず」になっている。正しい変換だと思う。「腐女子に聞いてはいけないこと」とテレビで断言してしまうと、作者の主観ではなく、一般化された見解と受け取られてしまうだろう。
小説や漫画では、作者個人の顔が見える。しかし、テレビというのは公に開かれたメディアだ。老若男女、どんな人が見ているか分からない。

実際、「処女?」というセリフは、声優の声で聞かされると、ずいぶん失礼に感じる。ところが、漫画の中の字面だと、いくぶんソフトに読み取ることができる。もちろん、少女漫画誌に掲載、という部分でフィルタリングもされているでしょう。
反面、テレビだと聞くともなしに耳に入ってきてしまう。アクシデント率が高くなる。

メディアごとの影響力の大小について、送り手も受け手も、鈍感であってはならないと思うのです。


どうしても続きが気になるので、『海月姫』の2巻と3巻を買いに、近所のTSUTAYAに行った。領収証を出してもらおうとしたら、レジスターが壊れて発行不能。手書きの領収証は、アルバイトには発行権限がないという。
バイトくんは、あたふたしている。僕はなんだか悪いことをしている気持ちになって、汗が出てきてしまう。彼もつらいが、僕もつらい。日曜の夜、楽園から最も遠い場所。小器用に世の中を渡ってあるく連中には、想像もできまい。

お釣りをもらいそこねた気がするが、それはもういいや。

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コメント

海月姫はアニメ化以前から追いかけています。この作品は、実は何の外連味も無い『少女漫画の王道』なのだと思ってます。そこが凄く好き。

投稿: キサ | 2010年11月 7日 (日) 22時39分

■キサ様
たった今、第三巻まで読みおえました。
自分の先入観が、どんどん崩されていきます。

>『少女漫画の王道』

クラゲのようなウェデング・ドレスを着たいとか、確かにそうですね。
「女の子らしさ」をめぐる話ですね。

投稿: 廣田恵介 | 2010年11月 7日 (日) 22時52分

少女漫画....何か読みたくなってきた。
『海月姫』気になるなあ...現代ならではの悩める若人の姿をディープに描いてる感じ?

投稿: ごんちゃん | 2010年11月 8日 (月) 14時39分

■ごんちゃん様
>現代ならではの悩める若人の姿をディープに描いてる感じ?

いや、飽くまでもコメディとして。
ちゃんと少女漫画らしい三角関係や、ロマンスもある。

ただ、僕はどうしようもなく、この漫画に「今」を感じる。


投稿: 廣田恵介 | 2010年11月 8日 (月) 18時26分

モーニングで同じ東村アキコさんの「主に泣いてます」読んでます。
何でこの漫画が好きか自分でもよく分かってなかったんですが、
「いろんなものに振り回されてる人々を否定も肯定もせずに描いている」
というのはシックリきた気がします。

投稿: 米田京平 | 2010年11月11日 (木) 05時47分

■米田京平さま
あ、ご無沙汰です。「最近、どうしてるかなあ」と思っていたところです。

『主に泣いています』というタイトルが、すでに良いですね。
『海月姫』は、自分にとっては重たくて、今はつづきを読むのをやめています。

投稿: 廣田恵介 | 2010年11月11日 (木) 10時09分

『海月姫』5巻まで全部買い、家事しながら一気読みしました。久々に本(といっても漫画)に集中したせいか頭痛が....最高に面白かったです。他に何かオススメの漫画ありますか>

投稿: ごんちゃん | 2010年11月11日 (木) 14時07分

■ごんちゃん様
この漫画、5冊買っても2千円ぐらいなんだよね。

>他に何かオススメの漫画ありますか

オススメではないけど、『ナチュン』が好きです。断じて、オススメではないけどね。

投稿: 廣田恵介 | 2010年11月11日 (木) 15時29分

おひさしぶりです。
海月姫、大人買いしてしまいましたが、痛くて愛しくて、読み進むのに時間がかかります。

外から帰ってきて、あれやこれやをキャストオフするとき、武装解除してるって感じがものすごくするんです。武装というからには何かの仮想敵と戦っているのでしょうね。女らしい女も、あれは女装であって鎧なんですね。
2巻で蔵之介がヒールの必要性を説くところなんか、涙なくしては読めない。

投稿: ちえきち | 2010年11月14日 (日) 11時45分

■ちえきち様
僕も一冊読むたびに、一分間は中断して泣いているので、4~5巻は怖くて買ってません。

>2巻で蔵之介がヒールの必要性を説くところ

「そんな格好では戦えない」と言うところですね。あれは哀しいかな、正論だと思います。まったく同じことが、男についても言えると思うので……女性のほうが、風当たりは強いだろうけど。

自由というのは、何かしら対価を要求します。自分の楽な格好、個性的な格好をしていては、今の社会は相手にしてくれない。
オシャレというのは、「鎧」という意味だけはなく、お金をかけて楽しむものだと思ってはいますが……

そんな社会が、いい環境なのかどうかは、今の僕には、分かりません。

投稿: 廣田恵介 | 2010年11月14日 (日) 12時31分

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