« ■プレゼント■ | トップページ | ■海月姫の原作を■ »

2010年11月 5日 (金)

■私の職業、「無職」だった■

ひとつ企んでいることがあって、その用事で市役所に行ってきた。
まず、雑誌や本に記事を書いて、その原稿料のみで10年以上も生きていることが、分かってもらえない。親元で暮らしてるわけでもないし、副業があるわけでもない。スタンド・アローンの一人暮らしで、ちゃんと貯金もある。
でも、そんな仕事にいちばん近いのは「無職」なんだと言われたよ。おいおい。年間、いくら納税してると思ってんだよ。

もうひとつ、詳しくは書かないけど、ある制度を紹介してもらった。
若者と女性向けの制度で、女性は年齢制限なし。男性は年齢制限付きで、俺のようなオッサンは対象外。……ね? 女性は、血縁や地域が生かしてくれる。男性は、「てめぇで頑張れ」と、市の制度までが言っているでしょ。
頼まれなくても頑張っているけどさ、これで「男性が生きづらい世の中」ということが、分かってもらえただろうか。


さて、『海月姫』である。
大金をかけた女装によって、母親不在の父権家庭から距離をおきたい男子大学生・蔵之介。彼は、主人公の月海をはじめとするオタク女子たちを面白がりながらも、彼女たちが団塊ジュニアの30代ニートであることを暴く。暴くだけで、批判はしない……がために、ここには相容れないふたつのコミュニティが並存してしまっている。その光景が、僕には痛々しく感じられる。

蔵之介が真に暴力的なのは、化粧ひとつしない月海を、メイクで「女の子らしく」変身させChara_tsukimiてしまうところだ。月海は、女だからといって、本当にオシャレでなければいけないのか、鉄道オタクや三国志マニアのまま生きていってはいけないのか、激しく悩む。
「男らしさ」から逸脱したはずの蔵之介は、「女の子はオシャレでなくてはならない」という因習にとらわれている。その暴力的矛盾に、蔵之介は今のところ、無自覚だ。
――エキサイティングだ。面白い。おおいに考えさせられる。

僕には、無職を笑えない。20代のころは、最下層のアルバイトを転々として、ひどい貧乏を強いられたものだから。
ニートは「社会性がなく、能力もなく、働く意欲もないごく潰し」のように世間では定義され、ネットでは相手を卑下するときに用いられるけど、でも、僕には笑えない。環境ではなく、心の問題だと思うからだ。

『海月姫』は、蔵之介の「男らしさからの逸脱」に肩入れしながら、「女の子らしさ」にコンプレックスを持つ月海たちを全肯定しない。
大金持ちの政治家の家庭と、親の仕送りで暮らすニートたちの下宿との、どちらがいいとも悪いとも言わない。
それが、こんな社会に生きる若者への、せいいっぱいの誠意だと言わんばかりに。


『それでも町は廻っている』第5話、奇跡的なバランスで笑わせてくれた第2話を越えられないのは分かっているけど、後半の小学生が駄菓子屋デートってのは、きゅんと来た。
Img_20100809t234406281あと、このアニメはオッサンとババアをたくさん出したほうが、面白くなる。第2話は、オッサンがいっぱい出てきたよね。

あと、このアスペクト比、正味23分かそこらの中で、「これがベスト」という密度があるように思える。第2話だと、ときどき、キャラがシルエットになる。それによって、情報量を調整しているんじゃないかな。
あと、小見川千明のトーンの高さに対して、悠木碧の声が抑えめで、すごく聞きやすい。そこへ、櫻井孝宏のババア声。このアンサンブルが、第2話は、とても気持ちよかった。

『それ町』は『ど根性ガエル』の復権と言いたいけど、夜中の2時や3時に放映じゃなあ。夕方5時がぴったりなテイストなのに。

(C)東村アキコ・講談社/海月姫製作委員会
(C)石黒正数・少年画報社/それ町製作委員会

|

« ■プレゼント■ | トップページ | ■海月姫の原作を■ »

コメント

無職なら普通収入が無いですよね、酷い話です。

投稿: 鷲 | 2010年11月 5日 (金) 20時31分

■鷲さま
ありがとうございます。しかし、おそらく「あえて分類すれば、無職に近い」というニュアンスでしょう。
「本当にサラリーマンじゃないんですか?」「どこかと契約してないんですか?」とも、しつこく聞かれました。

……とは言ったものの、年収で下回っている(というか私たちの税金で暮らしている)連中が「あなたは、無職ですね」って、よく言えたよなあ。

投稿: 廣田恵介 | 2010年11月 5日 (金) 20時41分

ご無沙汰しております。
社会として未成熟な町にいますると、女性の、社会の中での生きにくさや、会社で出世できないことや、自立の側面での不公正さというものもあり、わたしの周りの女性たちを見ていると、本当の意味で女性が地域や血縁にいかされているかどうかは、わかりません。女性を守る制度があることが、まだまだ未成熟ですし。男社会に媚びを売って、女性が女性の足をひっぱているなんて声もたまに聞きます。
でも、そんな制度さえ関係なく社会から、無視されている男の生きにくさも、分かります。
男社会であるなら、その大多数の男が、いわゆる男を定義していて、男がその他の男を認めていない。そこに闘争はなくて、無視されている。
きっと、「てめぇで頑張れ」とも言っていない。「てめぇ」がいることもわからないから。

そういえば、以前、失業手当をあてにして、職安に無職の認定を受けに行ったのですが、会社を辞めてから一年以上経っていると雇用保険はちゃらになるとのことで、失業認定さえしてもらえませんでした。
おれ、仕事ないのに、無職でさえないの? と。
行政をあてにした俺がバカだった。

だいたいが、公務員は給料にしても保険にしても労働時間にしても恵まれていて、そのことに気づいていないとしか考えられない公務員がいますよね。市民感覚がずれたまま制度とかつくってんだろうな、ピントずれてるよ、って思います。
それを憂いて行動しようとしている若い公務員さんもいるのですが……。

投稿: ユキサダ | 2010年11月 6日 (土) 16時24分

■ユキサダ様
ご無沙汰してます。
なるほど、ちょっと迂闊な発言をしてしまいました。確かに、単に女性だというだけで給料が不当に安い…という話も耳にします。血縁者が「早く結婚しなさい」と世話をやくのは、本人にとって重圧かも知れません。
ただ、私の住んでいる三鷹市は女性市長なので、細かいところで女性が優遇されていると感じます。若者を支援するのも、人口比率を考えれば、理にかなっているのですがね……。

僕は若くない男性、生殖に貢献できなくった男は「あまりもの」だと思っているのですが(笑)、問題は若い男性ですよね。仕事がなくて当たり前なのに「甲斐性なし」と見られてしまう。

>おれ、仕事ないのに、無職でさえないの? と。

ひどいですよねえ。仕組みや決まりがあるだけで、人間がいない。ああ、映倫の対応とそっくりだ。小6の女の子を死なせた群馬県の学校も、似たようなもんですね。

やっぱり、自分の実感として「おかしいのではないか」と思ったことに対しては、黙っていてはいけないと思います。粘着クレーマーと呼ばれようともね。

郵便局は民営化されましたが、17時にもなっていないのに、もう帰り支度をはじめている(笑)。みっともない。
でも、「決まり」を優先して、自分の実感から善悪を見極めようとしないのは、公務員だけではないと思います。

投稿: 廣田恵介 | 2010年11月 6日 (土) 17時35分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ■私の職業、「無職」だった■:

« ■プレゼント■ | トップページ | ■海月姫の原作を■ »