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2010年9月12日 (日)

■アートアニメーションの小さな学校■

昨夜は、「アートアニメーションの小さな学校」で、舛成孝二監督の講義でした。
Ucyushow022時間のうち、1時間半が『宇宙ショーへようこそ』の地球パートのコンテを見ながらの解説(のち、当該シーンを上映)、30分は『R.O.D』のワンシーンを上映して、カッティングの効果を解説。
単にその作品のファンである…というだけでは着いていけないだろうけど、演出に興味があれば、この上なくエキサイティングな2時間でした。


まず痛快だったのは、演出になっても監督になっても、30歳ぐらいまで「イマジナリーライン」という言葉を知らなかった、という話。
「でも、理屈としては間違っていても、作品は間違っていなかった」という舛成監督の言葉、正しすぎる。
実際、最初から最後までイマジナリーラインを遵守している作品など、実写でもアニメでも、ほとんどありません。厳密にイマジナリーラインを守っている場合は、何かしら隠された意図があります。

僕らの大学でもそうでしたが、やたら「イマジナリーライン」を連発する人は、要注意です。そんなもん、映画の面白さとは微塵も関係ないので。


あと、メモ帳から監督の発言を拾うと、「コンテは、作画に有益な情報を渡すためにある」「キャラがものを食べはじめた瞬間、芝居ではなくなってしまう(なので、食べはじめる前に切る)」「ドラマとは、キャラクターの動きから生じる」……
最後の「キャラクターの動き」というのは、作画のことだけではありません。キャラがどこにいるのかという配置、セリフがOFFであるかないかなど、もっと立体的な意味です。

ようするに、僕が最近、『けいおん!!』が面白いと連発しているのも、そういう「面白さ」なんです。ストーリーやキャラクターのことを知らなくても、カメラの位置やカットのつながりを見ていくだけで、ちゃんと「面白い」はずなんです。
だから、「映画は途中から見ても面白い」と、僕には断言できてしまう。

『けいおん!!』23話の部室のシーンで、長椅子がフレームに入っているか、いないかだけで、ちゃんとドラマになってますよ。
「そんな瑣末なところ……」と笑われそうだけど、瑣末なところにドラマがある。起承転結がどうとかいうのは、文学か演劇から、劇映画が拝借してきた形式にすぎない。映画が映画たる根拠は、カットワークの中にしかない。何をどう撮り、どう繋ぐか。映画の面白さは、そこにある。

あえてアニメと映画を混同して書いたけど、アニメは劇映画の組み立て方を模倣しているので、基本原理は同じだから。
必要なのは、専門知識ではなく、「面白がる能力」なんです。


もっともっと書きたいけど、長いと誰も読んでくれないので……。
夏紀に関する、僕のキモイまでの思い入れは、思わぬ方向から説明がつきそうです(ヒントを下さった方、ありがとうございます)。

講義後の懇談会は、現役アニメーター、演出家の方が多かったのですが、京都学園大学の有吉末充先生とのお話が、面白かったです。製作委員会の座組みや興行収入の話で、あんなに盛り上がれるとは。

毎日、仕事に追い立てられてるけど、人生は面白い。


「自由にとって肝要なのは勇気だ」(アンゲラ・メルケル独首相)
『ぼくのエリ』問題も忘れてませんので、映倫の先生方、よろしく♪

(C)A-1 Pictures/「宇宙ショーへようこそ」製作委員会

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コメント

良い言葉沢山でてきますね....それだけで面白い。
映画もそうかもしれない。

「面白がる能力」
だなんてステキ過ぎます。。。

「自由にとって肝要なのは勇気だ」
それも、やっと理解できるようになりました。
自由を誤解してると苦しいですよね。

宇宙ショーの話、私も聞きたいなあ〜。

投稿: ごんちゃん | 2010年9月12日 (日) 17時05分

■ごんちゃん様
来年2月にDVDとBDが出るので、監督の話もコメンタリーで入るみたいよ。

>「面白がる能力」

面白がる能力もない人間に、「つまんなかった」とか抜かす資格はないと思うんだよね。
何を見ても、何かしら文句がある人は、それはあなたのスキルが低いだけですよ、と言ってあげたい。

>自由を誤解してると苦しいですよね。

もし簡単に手にできるとしたら、それは「自由のパチモン」なんだよね。
ネットなんて「自由のパチモン」の最たるものだと思う。

投稿: 廣田恵介 | 2010年9月12日 (日) 17時23分

ちょっと前まで、けいおん!を批判していたんですけれど、
2期は純粋に面白いと感じました。
やっぱりドラマですよね。
他のアニメと違って細々した部分がよくできてます。
作画も、脚本も。
そのせいか感情移入もしやすいです。
個人的には吉田玲子さんの脚本が好きです。

投稿: fuuing | 2010年9月13日 (月) 03時09分

■fuuing様
コメントありがとうございます。

えーと……僕は『けいおん!!』を見終わっても、「それで、どういう話だっけ?」とか「結局、何か進展したんだっけ?」と思うことが多いです。
あと、いまだに、キャラクターの名前が覚えられません(笑)

そんなこと分からなくても、絵の組み立てを見ているだけで、ちゃんと「面白さ」は見つけられるんだ、ということですね。

このアニメを「萌えだから」「学園モノだから」という理由で切り捨てている人は、ずいぶん損をしていると思います。

投稿: 廣田恵介 | 2010年9月13日 (月) 07時49分

>昨夜は、「アートアニメーションの小さな学校」で、舛成孝二監督の講義でした。
いいですねえ。
>30分は『R.O.D』のワンシーンを上映して、カッティングの効果を解説。
>コンテは、作画に有益な情報を渡すためにある」
>「ドラマとは、キャラクターの動きから生じる」
OVAの第一巻ラスト、読子がナンシー・幕張の手を握る前に指でナンシーの手の感触をあらためて確かめるカット、脚本にはなかったそうですが台詞一切無しでいろんなものが伝わる見事な演出だった記憶があります。宇宙ショーでもそうでしたが枚数かかるのに桝成監督はこういうとここに充分な手間をかけますよね

投稿: Miya-P | 2010年9月13日 (月) 19時07分

■Miya-P様
手の演技、ということで思い出したのですが、「キャラのアップというのは、顔だけじゃない。手だって、そのキャラのアップなんだ」という意味のことを、おっしゃってました。
まったくの正論ですね。

講義で上映されたのはテレビ版の『R.O.D』でしたので、あまり枚数はかかってません。それでも、アングルを変えたり、画面外でキャラを歩かせたり、すごく効率的に考えてありました。

そういう工夫を読みとってアニメを評価する人は、とても少ないなあと感じています。

投稿: 廣田恵介 | 2010年9月13日 (月) 19時38分

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