■カラフル、2回目■
立川シネマシティで、『カラフル』二回目。98席だけど、前3列以外は、ほぼ満席。
日曜夜の回でこれなんだから、昼間はもっと入っていただろう。
なんか、今回は、服の色が気になった。いくつかあったけど、真が父から借りたマフラーの色と、早乙女くんのマフラーの色が同じなのは、たぶん狙ったんじゃないかな。
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真のお母さんは、ボーッとしていて、灯油を玄関にこぼしてしまう。女性キャラクターは泣くシーンが多いが、涙以外の液体を使って、涙以上のものを表現している。
ひろかの右手にした黒絵の具が、筆頭だと思う。ひろかが涙を流すと、床に黒い絵の具が滴る。
クライマックスのすき焼きのシーンで、泣きつづけているお母さんが、真の器に、すだちを垂らす。しぼり出すような、一滴の涙ですね。
ひろかの手をひっぱる真に、容赦なく降りかかる雨は、彼の涙なのかも知れないしね。
ただ、絵で語ろうとしていないというか、技巧の少ない映画だと思う。北野武は「背景なんか、ただ映ってさえいればいい」と言ったけど、その言葉の対極にあるように見えて、実は、近い哲学を持ってるんじゃないかな。
お母さんなら、ただ「お母さん」と認識できさえすればいい。そのために、絵を使っているわけであって、それ以上の理由はないと思う。
そのドライさは、閉塞であるように見えて、実は自由への通行手形なんですね。
キャラクターに淡白であればあるほど、文学性が増していく。「絵でありつづけることの意味」を、ここまで意識したアニメ映画も、なかなか珍しいと思う。
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DVDで『マン・オン・ワイヤー』。
17歳のとき、世界貿易センターの建造計画を知り、なんとその完成を待ってから、二つのタワーの間を綱渡りした男、フィリップ・プティのドキュメンタリー。
建造中のセンターの屋上に登り、彼はこう思ったそうだ。「こんな高いところ、とても不可能だ……よし、やろう!」
注目すべきは、フィリップの行為が犯罪であり、警察に捕縛されるシーンを、余さず挿入していること。彼は毎回、絶対に捕まらなければならない。フィリップの「表現」は、社会秩序に対する反逆だから。
芸術は、既存の枠組みを壊すためにある。
以前に「芸術と犯罪は仲良し」と書いた。真実に迫れば迫るほど、法を侵食していく。タブーに分け入っていく。
どことなく、人の顔色をうかがった表現物が、いちばんつまらない。
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コメント
>芸術は、既存の枠組みを壊すためにある。
以前に「芸術と犯罪は仲良し」と書いた。真実に迫れば迫るほど、法を侵食していく。タブーに分け入っていく。
どことなく、人の顔色をうかがった表現物が、いちばんつまらない。
ほんとにそうだね....。
だから、私も出来るだけ「芸術」に触れていたい。
最近は、今更ながらアニメの素晴らしさに目覚めてしまったから沢山見たいと思ってます。
ファッションでも音楽でも映画でもデザインでも「迷いが無い」って一番強いしカッコイイ!
サイタマラッパー観なきゃな〜!
投稿: ごんちゃん | 2010年9月 6日 (月) 21時02分
■ごんちゃん様
だから、「迷いがない」がために、警察に捕まってもいいですか?という話だよ。
ファッションでも、音楽でも、映画でも、アニメでも、僕らは権力が「許した」ものだけにしか、触れられない。
そのことを、いつも意識していたほうがいいよ。
権力者が、ビビって、覆い隠したくなるもの。それが本物の芸術だ。
そうではなく、見ていて楽しいもの。それは「娯楽」なの。
投稿: 廣田恵介 | 2010年9月 6日 (月) 22時04分
それを言われるとそうなんだけど、「マイマイ新子」は芸術だと思ったから、救いたいと思ったわけで....。
でも、私たちは知らず知らず「本物=芸術」に触れる、知る自由を奪われてるんだってことは自覚しなくてはいけないね。
権力者のしていることは日本人の「可能性」そのものを潰していることだと..何で分からないのだろうね。
いつまでも受け身ではいけないわけだよね。
投稿: ごんちゃん | 2010年9月 7日 (火) 05時07分
■ごんちゃん様
何の対価も求めない表現が「芸術」……と、僕は考えている。
一方で、今の社会と足並みを揃えながら、誰もが安全に楽しめる「娯楽」だって、もちろん必要だ。
両方なければ、健全な社会とはいえない。
>権力者のしていることは日本人の「可能性」そのものを潰していることだと..何で分からないのだろうね。
抑圧されればされるほど、そこにエネルギーがたまって、大きな反発が生まれるはずなんだ。
しかし、今の日本ではネットが怒りを吸収してしまっている。自分の足で歩き、顔を見て話さないと、何も変わらないのにね。
投稿: 廣田恵介 | 2010年9月 7日 (火) 07時18分