■唯の昇る3カット■
『けいおん!!』は、いつも部分評価はしても、プロットそのものには感心しなかったのだが、最終26話は良かった。唯たちが、憩いの場である部室に「入らない」「入れない」。まして、部室の中の様子さえ見せようとしない。
唯だけが部室の前にいるのに、他の3人は階段の下にいる――この俯瞰と煽りの構図も、かなり残酷だと思った。部室という楽園に戻ることを拒まれた4人は、しかし、そのことを笑顔で受け入れる。
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部室に梓がいる、と感知した唯は、廊下を走る。カメラは、唯の見た目になる。CGの背動の正しい使い方だ。
バスト・ショットで、上手から下手に走る唯。足元のアップ。ここから先の3カットがよかった。3カットとも、階段を駆けのぼる唯のフル・ショットなのだが、普通はサイズを変えてメリハメを出す。つまり、キャラの大きさを変えるのが常套だと思う。
だいたい、「フル・ショットで階段を昇る」って作画そのものが、かなり大変だよ。でも、『けいおん!!』は、それを平然とやる。
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1カット目。唯は廊下の柱のかげからフレーム・インして、階段を昇る。しかし、アウトは描かれない。
そのままアクションつなぎで、2カット目へ。やはり、廊下の柱から唯がインしてきて、コーナーを曲がって、次の階段へ。そして、フレーム・アウトしない。階段を昇っている途中で切れる。
3カット目。もう、唯はフレーム・インさえしない。カット頭で、もうフレームの中で走っている。そして、階段を昇る途中で、やはりカットが切れる。
つまり、フレーム・アウトさせないことで、唯が急いている感じが出る。上手い。最後のカットなんて、もうインすらしないんだから。そこまで、唯を一生懸命に走らせるからこそ、その後、部室の前でピタリと止まってしまう芝居が、すごく生きてくる。
ドアノブをつかんだままの唯の横顔、目パチを一回やるところも、上手い。あそこで目パチがなかったら、深刻なムードになってしまう。
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あと、先生の家へ向かう途中、澪が「プライベートがあるだろ」と3人を呼び止めるシーン。
「プライベート?」と聞きかえす3人は、密着マルチでスライド(左図)。
「彼氏が来てるとか……」と切り返す澪は、同ポジで動かない。その「同ポジである」ということが、澪の慎重な性格と思考を表している。
片や、スライドで動く唯たち3人は、その直後に走りだす(気が急いている)ので、だから、スライドで動かす。つまり、カメラワークに、根拠がある。
その後、走り出す3人は、走り方が、それぞれ違う。これは、心霊写真を見てビビるシーンでも同じ。全員、動きが違う。キャラクターの「性格」というのは、芝居とカメラワークでしか見せられないんだ、とよく分かる。
だから、このアニメは、いっそ映画にすれば?って思っていたら、映画になるそうで、単純に楽しみだよね。
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いま、深夜アニメは本数の多さとソフトの売り上げが、反比例している。そんな中で、『けいおん!』シリーズのヒットは、福音といってもいい。
ケチらずに、全国28局2クールというのが効いたのかも知れないし、ポニキャンも相応のリスクをしょってると思う。映画のときは、どこが配給になるのか気になる。なんらか、変化球を投げてほしい気がする。
(C)かきふらい・芳文社/桜高軽音部
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