■正しい者を、こっそり入れて■
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今から、一風呂あびて、ラピュタ阿佐ヶ谷です。
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その前に、『ぼくのエリ 200歳の少女』の、モザイク(ボカシ)について。
配給のショウゲートさんで、1時間半ほど、事情を聞いてきました。まず、強調しておきたいのは、「オリジナル版のまま、上映する」前提で、ショウゲートさんは奮闘されたこと。
ところが、映倫が審査にかけてくれなかったんだそうです。
「当該カットにボカシを入れないかぎり、審査はしない」。これでは、国内上映そのものが、成立しなくなってしまう。
なので、原作本の記述、劇中でのエリのセリフ、設定や物語上での意図などを、何度も説明したそうです。ところが、「法に抵触するから」と、審査にかけてくれない。
どんどん、時間がなくなっていきます。
そして、国内にはネガが存在せず、わずかにポジがあるのみ。デジタル的な加工など出来ませんから、プリント自体に手を加えるしかない。本国でも、その手法でOKが出たので、あのようなボカシ(というかシネカリといった方が、ぴったり来ますが)を入れました。
それで、ようやく審査にこぎつけ、PG-12で通過。
ちなみに、もし、オリジナルのままで上映できるのなら、R-18も覚悟していたそうです。
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気になるソフト化ですが、さすがにシネカリ手法は使わないにしても、何らかの形で、手を加えざるを得ないでしょう……とのこと。なぜなら、当該カットに手を加えないと、またしても、審査を受けさせてもらえないからです。
また、ハリウッド版に関しては、今のところ、配給する予定はないとのこと。
なるべく、プレーンに書いたつもりですが、ほぼ、以上のような説明でした。ですから、映倫との間にトレードオフがあったとか、本国に無断で手を加えた……という事実は、一切ありません。
「姑息にも、勝手に自主規制したんじゃないか」などと疑ってしまい、大変お恥ずかい。ショウゲート、ご担当様の丁寧な説明に、あらためて感謝します。
関連→映倫からの返答
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以下は私の意見ですが、理不尽に思える表現規制には、敏感であるべきだと思います。「まあ、しょうがないね」「そういう時流だもんね」などと、思考停止してほしくない。この映画には、ひどく残酷なシーンはありますが、ひどく猥褻なシーンはありません。見れば、分かります。
ただ、原作小説には、「さすがにこれは……」というシーンがいくつかあり、それは映画化にあたって、原作者の手によって、周到にカットされています。
話がそれますが、原作小説は、前半のオスカルとエリの子供らしい会話が、弾むように生き生きと書かれていて、陶然としてしまいます。
反面、救いがたい絶望や怖れも、あますところなく描かれています。そして、「絶対に実写では見たくないな」と思わせるような残虐シーンが、映画では、実に詩的に処理されており、思い出しても、驚くばかりです。
当該カットも、その「詩的な処理」のひとつだったのだなあ、と気づかされるのです。だから、全体を見渡さないといけないんですね。何か、問題にぶつかった時には。
そして、ネットの情報をかき集めて、分かったつもりになってはいけないとも思います。
「でも、そんなこと言っても、近くで上映してないし」という方。『マイマイ新子と千年の魔法』のときには、そういう人たちが、地元映画館と粘り強く交渉し、あちこちで上映が実現したんです。
理想的な状況をつくるには、ひとつひとつ、具体的に行動を起こしていくしか、ないと思います。
私も、「地元で、『ぼくのエリ』を上映してくれないかなあ」などと考えはじめています。大変気にはなるけれど、モザイクひとつで曇りのかかる映画でないことも、また事実ですからね。
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コメント
どうも有難うございました。
ボカシの件、私も自主規制あるいは意図的な改変かと半ば勘ぐっていましたので、その点についてはショウゲートさんに申し訳なく思います。その分、映倫に対しては怒りで身体が震えてきました。「法に抵触するから」と言われたそうですが、どう考えても法的根拠があるとは思えません。日本だけでこのような問題が起こるということは、非常に恥ずかしいことだと思います。
せっつくようで申し訳ありませんが、邦題の話はされなかったのでしょうか?
「ボカシが入るらしい」という噂を聞く前から、設定と食い違った邦題には納得がいきませんでした。ソフト化の際、根本的にタイトル変更しないまでも、せめて「200歳の少女」の部分だけでも削るべきと思っています。
今回の記事を読ませていただき、ショウゲートさんが一般人の要望をクレーマー扱いするような姿勢ではないことがわかりましたから、私もメールで考えを伝えてみようかとも思っています。他力本願ではいけませんから。
今回の廣田様の行動は、この作品の多くのファンの心の支え、あるいは行動の呼び水となると信じます。本当に有難うございました。
投稿: esme | 2010年7月23日 (金) 23時14分
■esme様
ショウゲートさんに、わざわざ時間をつくって説明していただけのは、私のメールに電話番号や住所などの連絡先が、はっきり書いてあったから……とのことです。
もし、匿名での質問だったら、ここまで説明してもらえなかったと思います。
邦題の話も、もちろんしました。
ただ、「ふさわしくないとの意見も多い」という言い方で、「絶対に変えて欲しい」とまでは言いませんでした。
私が知りたいのは、根拠不明なボカシの理由でしたので、その点は、ご寛恕ください。
>映倫に対しては怒りで身体が震えてきました。
確かに、現行法で抵触しないはずですよね。「児童ポルノ」自体、その定義が、はなはだ曖昧なものです。それを根拠にする映倫は、むしろ危険な団体に思えます。
(あくまで、私の見解です)
ですから、声を小さくしてはいけない、と思うのです。
表現規制については、常に鋭敏に。われわれが黙ってしまったら、表現の自由など、あっさり簡単に奪われます。
そして、ふさわしい行動をとれば、必ず答えは得られます。まさに「正しき者は招き入れられる」のだと思います。
投稿: 廣田恵介 | 2010年7月24日 (土) 16時26分
あらためましてありがとうございました。
投稿: esme | 2010年7月24日 (土) 17時13分
すっかり作品の意図を取り違えた者です。それなりの本数、映画を真剣に観てきたと思ってきましたが、今回は原作の意図とは大きく外し、感動してしまった自分が情けないやら何やら。
劇場の混雑に「ま、いいか」とパンフレットを買わなかったことを悔やみます。
こちらの記事を、私のブログで是非紹介させていただきたいのですが、構いませんでしょうか? ttp://stuwart.cocolog-nifty.com/yoosseku/
投稿: Yooseku | 2010年7月29日 (木) 16時31分
■Yooseku様
初めまして。リンクは、まったく構いません。ご丁寧に、ありがとうございます。
>今回は原作の意図とは大きく外し、感動してしまった自分が情けないやら何やら。
私も、「自分が見たものは何だったんだろう」……と、茫然自失しました。
後から原作を読んで、実に丁寧に整理されているのが分かりましたので、改めて映画に感心すると同時に、何が問題なのかも、明確になってきました。
だとするなら、もうネットで罵るのはやめて、当事者に質問するしかなかったんです。
事情を知ったから…というわけではありませんが、原作を咀嚼した上で、もう一度、見てみようと思うんです。
ひょっとして、感動は取りもどせるんじゃないか、前回よりも理解できるんじゃないか……そんな予感が、するのですよ。
あと、パンフは必ず購入します(笑)。
投稿: 廣田恵介 | 2010年7月29日 (木) 19時02分
廣田さま。ご快諾ありがとうございます。私もパンフは購入すると決めました。
配給会社は悩んだ末にハラをくくって本作を買い付け、大いに悩んだ結果あのタイトルを付けたに違いありません。ですので配給会社と劇場には心から敬意を表し、感謝しています。
パンフレットを読んだうえで、あらためて感想をアップしたいと思っています。
一連の経緯をご紹介くださり、ありがとうございました。
投稿: Yooseku | 2010年7月29日 (木) 20時23分
■Yooseku様
私も、あの邦題は「よしんば公開できても、売れてもらわないと困る」という事情から、付けられたものと思います。
「200歳の少女」というサブタイトルは、やや抵抗があるのですが、原作本でも最初は「少女」と紹介してありますし、最低、200歳は生きているわけだし、ミスリードとは思いません。
担当の方は、しっかりと原作本を読み込んでいます。
付け加えると、私が質問状を送ったとき、部内全員で話し合ったそうです。
そのような会社だからこそ、映倫と果敢に戦ってくれたのでしょうね。
投稿: 廣田恵介 | 2010年7月29日 (木) 20時48分
廣田さま
すばらしい会社ですね。
あらためて公開にこぎ着けてくれたことに感謝です。
投稿: Yooseku | 2010年7月29日 (木) 21時09分
★コメント欄を、最後まで読んで下さった方へ
『ぼくのエリ 200歳の少女』に関するネットでの、根拠不在の憶測(配給会社は原作を読んでない、宣伝する映画すら見てない…などの誹謗中傷)には、心底、腹が立っています。
また、私が配給会社へ、タイトル変更の要望を出さなかったことへの不満が、他人様のブログの、コメント欄に書いてある。
そんなに不満なら、なぜ私がやったように、配給会社に意見するなり、ネットで反対活動を起こすなりしないのでしょう?
配給会社の担当者は、原作を読んでいるのはもちろん、本国とも連絡をとりあっています。それで、あのタイトルに決まったんです。
少なくとも、ネットでデタラメな推測をとばしている連中の、何百倍も働いたんですよ。一本の映画のために。
投稿: 廣田恵介 | 2010年8月31日 (火) 00時54分
はじめまして、じんけしと申します。
大変興味深いレポをありがとうございます。こういうことをきちんと取材していただける方がいらっしゃることは本当にありがたいです。
いくつか質問があります。私も過去配給会社に取材をしたことがあり、その経験から疑問があります。
1:通関時は問題がなかったのか
2:R-18も覚悟とありましたがレイティングを交渉材料とはしなかったのか
3:映倫と映像倫は別団体ですが、映像倫も審査不可を表明しているのか
もし取材過程で知り得たことで、教えていただける部分があれば教えてください。よろしくお願いします。
投稿: じんけし | 2011年1月23日 (日) 10時54分
■じんけし様
はじめまして。HPでは、かなり本格的に取材記事を掲載されていますね。このような方が『ぼくのエリ』問題に関心をもっていただけることは、非常に心強く感じます。
ご質問の件ですが、
1.通関で引っかかったという話は聞いていません。
2.「R-18でもいいから、無修正で公開したかった」と、配給会社から伺っています。また、「トレードオフなどなく、それ以前に審査にかけてもらえなかった」と聞きました。
3.「映像倫」という団体は、寡聞して存じませんでした。「映像倫理協議会」のことでしょうか。不勉強で、申し訳ありません。
映倫(映画倫理委員会)の審査結果は、二次利用(ソフト化やテレビ放映)にも適用されると聞いております。
配給会社に対しても、映倫に対しても質問をしてきましたが、「廣田のやっていることは手ぬるい」との批判も受けています。
どうぞ、お手柔らかに……。
投稿: 廣田恵介 | 2011年1月23日 (日) 11時39分
さっそくのご回答、ありがとうございました。通関でアウトになる時は性器の描写に関することが多く、そうするとやはり児童ポルノと誤解されかねない(そんなことはないのに・・・と思いますがねぇ)点での映倫の姿勢がポイントでしょうか。
映倫が審査拒否というのは時々耳にするケースで、ここ最近だと『屋敷女』(オリジナルは映倫審査せず、配給側が自主規制後、審査通過)が近いケースかと思います。あと審査拒否のまま押し切ったケースとして思い浮かぶのは三池崇史の『インプリント』をイメージフォーラムが上映したケースです。
映像倫は映倫とは別団体なので独自判断をすることがあります。上映時より修正されたり、また逆に上映時よりオリジナルに近い状態で楽しめることもあります。『屋敷女』はセル版とレンタル版では修正が違い、セル版では修正がありません。なんとか『ぼくのエリ 200歳の少女』がパッケージでもよいのでオリジナル版でみられるとよいのですが、難しそうですね。
今回の出来事でここまで知ることができ、本当に感謝しております。今後とも一映画ファンとして応援しております。またこれからこちらのブログにもときどき遊びに来たいと思います。
ありがとうございました。
投稿: じんけし | 2011年1月23日 (日) 21時31分
■じんけし様
こちらこそ、ご丁寧にありがとうございます。
児ポ法規制強化の趨勢を受けて、とにかく何も着用していない未成年の股間はマズイというのが映倫の判断のようです。
(性器など映っていませんから、「股間」としか言いようがありませんよね……)
>オリジナルは映倫審査せず、配給側が自主規制後、審査通過
確かに、『ぼくのエリ』はこのパターンだと思います。映倫が、配給サイドに自主規制を「強いた」という部分が、最も危険な部分だと思います。
>イメージフォーラム
イメージフォーラムは、全興連に未加入かと思います。だから、映倫審査と関係なく上映できたのでしょう。
他に、アニメを宣伝用に短期上映する際、「イベント上映」と銘打つことで、映倫審査をパスした例があるそうです。
>『屋敷女』はセル版とレンタル版では修正が違い、セル版では修正がありません。
調べてみましたが、2009年発売と、比較的最近の作品なんですね。
『ぼくのエリ』は、それこそイベント上映でも、映画館でなくとも良いので、国内で無修正版を上映したいと思っています。
少なくとも、現行の映倫が無価値であることを証明してみせたいのです。(後援のスウェーデン大使館は、本件にまったく興味を示していませんが)
いろいろ勉強になりました。重ねて、お礼申し上げます。
投稿: 廣田恵介 | 2011年1月23日 (日) 22時11分
初めまして。当方のブログにて、映倫に関する記事を作成中であり、こちらの記事を参考にさせて頂きました。ありがとうございます。詳しくはこちらをお手すきの折にお読みください。
http://curse.jp/misc/20130723133747.html
投稿: tinker | 2013年7月23日 (火) 14時05分
■tinker様
はじめまして。もちろん、どんどん参考にして広めて下さい。
新しい記事は、アメリカ人の方が書かれるんですね。完成を楽しみにしております。
投稿: 廣田恵介 | 2013年7月23日 (火) 16時32分
ありがとうございます!こういう問題が内外に広く知られたらいいなあと思って微力ながらやっております。
投稿: tinker | 2013年7月24日 (水) 09時50分