■2月のメモ「ミツバチのささやき」■
池袋の新文芸座へ、『ミツバチのささやき』と『エル・スール』の二本立てに行った。
窓口で「今からですと、お立ち見になりますよ」と言われ、次の回の上映まで待っていると、なんと開場30分前から並ばされる。女性の一人客や、外人のカップルもいる。日本公開から25年、いまだ「名作」と認知されてるんだなあ……と感慨深い。
どのショットも、寒々しいまでの切実さに溢れている。小さい頃、夜毎に布団の中で感じていた、形にならない不安。恍惚。映画の中で「精霊」と呼ばれるものたちに、確かに触れていた時代が、僕にもあった。
20年前に記していた「映画鑑賞ノート」を引っ張り出してみたら、僕が『ミツバチのささやき』を見たのは、1988年だと分かった。
同じページに『怪盗ルビィ』、『ドグラ・マグラ』、『汚れた血』など、明らかに映画館で見た作品の名前があるので、間違いなく88年。ということは、映画館ではなく、ビデオで見たのだろう。
『ミツバチ』のすぐ下に、ケン・ラッセルの『マーラー』と記してある。この二本立てがあったという記憶もない。
「映画鑑賞ノート」には、驚いたことに「ミツバチのささやき…訴求力が弱い」と、そっ気ない一言が添えられていた。
これだから、歳はとっておくものだ、と思う。僕は大学卒業後、文献で『ミツバチのささやき』の批評を繰り返し読み、自分自身の感想はそっくり忘れたまま、「名作」のレッテルを貼ってしまっていたのだろう。
死ぬまでに、もう一度、どこかの映画館で出会うことになるだろう。その時、僕は今よりずっと年寄りで、死に近づいて、「精霊」の世界を、身近に感じられるんだろうと思う。
■
『マイマイ新子と千年の魔法』、バウスシアターの件が、いまだにモヤモヤと頭から離れない。言いたくて言いたくて、でも飲み込まなければならない言葉が、いくつもある。
署名を始めた12月初旬頃から、ずーっとこんなです。
「アニメージュオリジナル」の記事は、シネ・ヌーヴォの上映は2月12日までになっているし(実際は2月19日まで)、ラピュタ阿佐ヶ谷での上映も終わっていることになっている(2月12日までやってます)。
どうしてそうなっちゃったか……、文責として名前が載っている以上は、僕の責任です。
問題点は、現場、現場で各個に解決していくしかない。「A案がダメなら、B案がある」と言えるのは当たり前のことであって、ノーレスポンスの人までは救っていられない。具体的に、体を使って考えること。頭だけでは、ダメだ。
歩き、話すこと。それ以外に、問題の解決法はない。
監督のお声がけで、署名者数がグッと伸びました。毎日、必ず目を通しております。あと28日間ですが、よろしくお願いします。
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コメント
『ミチバチのささやき』は、ぴあの映画公開情報欄で「発見」したときのことをいまだに覚えています。
それが1985年だったのが不思議なくらいです。
『アリーテ姫』のとき、効果音の方に「こんな感じの音が欲しい」といって『ミチバチのささやき』を見せ、「だって、生音じゃないですか、これ!」と返されたのが懐かしいです。
『アリーテ姫』は"ヨーロッパ映画"を作ろうとしてたのでした。
投稿: 片渕 | 2010年2月 1日 (月) 10時39分
■片渕様
監督が、25年前に『ミツバチ』をご覧になったのは、確かに不思議な気がしますね。先日もお話しましたが、フランス映画社は、よくぞ70年代のこの映画を、85年に上映してくれた……と思います。
そして、確かに『ミツバチ』の枯れた大地や、ささやき声を聞くと、「これは『マイマイ』よりも、『アリーテ姫』じゃないか」と思い至りました。
「カットごとに色が違う」のは、実は当然のことなんですよね。光線が違えば、色も違って、当然なわけですね。
なので、『ミツバチ』を再見して『アリーテ姫』の根拠のひとつが、つかめた気がします。
>「だって、生音じゃないですか、これ!」
……何でしょう、風の音でしょうか。
投稿: 廣田恵介 | 2010年2月 1日 (月) 19時23分
飛び乗った木のベッドのきしみ音、だったですかねえ。
投稿: 片渕 | 2010年2月 2日 (火) 11時58分
■片渕様
ベッドのきしみ(笑)。
今、友達に『アリーテ姫』貸しちゃってるので、戻ってきたら、見てみます。
投稿: 廣田恵介 | 2010年2月 2日 (火) 12時56分
うん、でも、たぶん、そこは徹底してやってないんですよ。
投稿: 片渕 | 2010年2月 2日 (火) 15時52分
■片渕様
いや、言われると気になるじゃないですか(笑)
今、『ギャラクティカ』の原稿を起こしていますが、面白すぎて、どこも切れません。
投稿: 廣田恵介 | 2010年2月 2日 (火) 15時57分
『アリーテ姫』はあとは『コーカサスの虜』なんかも下敷きにしてますね。
投稿: 片渕 | 2010年2月 3日 (水) 21時45分
■片渕様
>『コーカサスの虜』
96年の映画のようですが、DVDは絶版です。
見られない映画、いっぱいです……。
何とか、そういう映画を集めて上映会でも出来ないかなあ、と考えてしまいます。
投稿: 廣田恵介 | 2010年2月 3日 (水) 23時28分