■アニメのグルメ■
いい加減、毎回毎回、くどいかも知れないけど、『マイマイ新子と千年の魔法』の話から。
前回、蒸しパンの話を書いたけど、これほど、おいしくなさそうな食べ物ばかり出てくるアニメ、今どき珍しいよ。ジブリの影響なのか、食べ物は何でも、綺麗な色で塗るじゃない。もう物語の流れとは関係なく、おいしそうに描けば勝ちだと思ってる。『スカイ・クロラ』のミートパイは、それほどうまそうに見えなかったと思うんだよ。そこには「退屈な日常の、退屈な食べ物」という意図を感じる。
逆に、『ポニョ』のチキンラーメンは、もう人類史上、最強にうまそうに見えないとダメ。それは、ポニョっていう食欲の強いキャラクターに供するから。
『耳をすませば』の鍋焼きうどんは、「絶対ウソだろ」っていうぐらい、うまそう。ジジイの手料理が、あんなうまそうなのはウソなんだけど、あのウドンは、半分ウソの、都合のいい世界観ってことで許容されている。
ジブリの食べ物は、描きこみはピカイチなんだけど、前後のシチュエーションが少々うさんくさい(笑)。魔法の食べ物すぎるんだよ。
だけど、何の意図もなくメニューと彩色で、うまそうに描くというのは、もうテンプレでしかない。どの作品、とは言えないんだけど、色指定を見て「あらら、ジブリ風料理を豪華版で出すわけですか」とため息が出た。アニメって快楽原則で出来ているから、美男美女しか出ないのと同じ理屈で、ご馳走ばかり出てきてもいいんだけどさ。飽きるよね、さすがに。
『マイマイ新子~』は、昭和30年代を意識してか、出てくる食べ物は粗末。でも、たったひとつ、絶対に美味しそうに描かなきゃいけないお菓子が出てくる。僕は、プレミア試写のとき、はしたなくゴクリと唾を飲み込んだよ。しかも、それは「子供たちにとっては」美味しそうであって、大人から見ると、たいしたもんじゃない。映画の世界観って、そうやって出来ていくんだよ。
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実写映画だと、『タンポポ』なんて食品のCMみたいなシズル感を出していたよね。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のTVディナーがうまそうなのは、あんなインスタント食品を、綺麗な女の子の前で、恥も外聞もなく食べるからだよ。だから、「関係性」なの。何がうまそうかってのも。
『バベットの晩餐会』なんて、次々と料理が映されるだけで、シチュエーション不在。味も素っ気もなかったな。『ミスター味っ子』に劣る(笑)。
『ZガンダムⅢ 星の鼓動は愛』で、ケーキが出てくるでしょう。あのケーキについて何も発言してないのは、ブライトだけ。ケーキに対しては、キャラクターそれぞれ距離感が違う。戦闘アニメの中に、いきなりケーキを放り込むことで、誰が何を考えているのか、分かるように芝居を組み立てている。こりゃあ頭、いいよねえ。
もうひとつ言うと、本物のブランド物のお菓子を持ってきても、実写では、ああは撮れない。食べ物をうまそうに見せられるのは、いまやセルアニメの特権。デジタルで色トレスが楽になったし、色数も増えたからね。でも、だからこそ、安易に使えてしまうわけだ。
『ポニョ』で、ハチミツ入りミルクを飲んだポニョの目のハイライトが、ぱっと三つに増える。むしろ、その演出のほうをスゲエと思ってしまう。食べ物と人物が、どう関係しているか。それを描いてないとしたら、食べ物の無駄なんだ。
『マイマイ新子~』では、まず、おじいさんに出される食事の質素さにギョッとさせられる。でも、「あの時代、あれぐらい高齢の人には、これで十分なんだろうな」と想像させられる。病人だしね。つまり、食べ物の描き方ひとつで、人物のバックボーンを瞬時に説明できる。実写では難しいよ、これは。
気になってるのは、新子が映画館から出てきたときに食べてる駄菓子。酢イカだと思うんだけど、合成着色料のせいか、真っ赤なんだよ(笑)。東京から来た、深窓の令嬢の貴伊子は牛乳から始まって、あれとこれと……どんどん食べ物が変わっていく。
それを考えると、『マイマイ新子~』って、かなり豊かな「食べ物映画」なんだよ。後半、原作の『マイマイ新子』ではチキンラーメンだった食べ物が、まるで『ポニョ』へのアンチテーゼのように、姿を変えて登場する。それを食べたいとは思わないけど、この映画の食べ物の中では、一番、気持ちが入るかなあ。まずそうなんだけど、好きだな。
こんな複雑高度な、矛盾した表現ができるのって、日本のアニメだけだと思うよ。
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