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2009年3月10日 (火)

■それでもテレビアニメは成立する■

アニメージュ 4月号 発売中
Am_200904
●「作画は、冒険する」
『鉄腕バーディー DECODE:02』第7話Bパートについての取材記事。原画や、担当アニメーター各氏のコメント、対談を見開き2ページにぎっしり掲載しています。
ちょっと物足りないので、来月発売の「アニメージュオリジナル」でも延長戦をやる予定ですが、まずはこの2ページで趣旨は一貫しているはずです。

あの第7話に関しては、「有意義」であった、と僕は思います。
つい先日も、あるアニメについて「作画崩壊している、ダメだこりゃ」という感想をブログで目にしました。「顔が違う。すごく気になる」という記述も見かけます。いつの間にアニメって、こんなに窮屈になってしまったのか、と慄然とするのです。
ちょっと前のエントリで書いたように、週刊ペースであるがゆえに予測不可能な事態が起きる、それがテレビアニメの醍醐味だったはずです。「作画崩壊」というと、僕らのようなオヤジ世代は初代『マクロス』のスタープロの担当回などを引き合いに出すのですが、あれを笑って許せるぐらい、昔はおおらかでした。スタープロの回は明らかにアクシデントだったわけですが、逆に「それでもテレビアニメは成立する」という開き直りでもあったわけです。
テレビアニメって、すごく図太い表現だったんですよ。

これは飽くまで僕の見解ですが、あの第7話は「敢えてアクシデントを起こした」のです。なぜか。今のテレビアニメが、均質化しすぎ、エネルギーを失っているからに他なりません。
僕に言わせれば、第7話は心臓マッサージです。とにかく「生きろ、蘇れ」と。もう、手足を失ってもいい。どんな傷跡が残ろうが、スライドと漫符だけで「動かしました」なんて手抜きアニメよりはマシだろう。大火傷を負ってもいいから、かつてアニメが持っていた図太い生命力を取り返せ! そんな制作者の叫びが聞こえたような気がしましたね。
だから、野次馬を巻き込んで騒ぎが発生したのは、ようはテレビアニメ界隈が活性化したとも言えるわけで、僕なんかは「半年に一度は、こういうアクシデントを仕掛けてくれないものか」と期待してしまいます。

一方、「とにかく俺が不愉快になったんだからダメ」「俺が作画崩壊と思うんだから、作画崩壊」という人もいます。こうした「お客様」が生まれたのは、メーカーが「DVDを売らなければ、このアニメは失敗」というビジネス構造をつくったことと関係しているのではないでしょうか。
DVDで回収するというモデルのため、視聴者が「お客様」に変貌してしまった。「おい、こっちは客だぞ!」「DVD、買ってやらねーぞ!」と言える権利を、メーカーが番組を見ていない人にまで与えてしまった。
今回の作画崩壊騒ぎを、「カツ丼を頼んだのに天丼が出てきた」と例えた人がいました。でも、テレビアニメって見るだけだったらタダですからねえ……「お客様」はまったくリスクをしょっていないわけですよ。その癖、ちょっとでも不愉快なことがあると、クレームだけはつけてくる。でも、リスクをしょってないから、当事者意識は希薄なわけです。
なんだか、テレビアニメって窮屈なメディアになっちゃったね……と僕は思います。

80年代のテレビアニメって、作画がボロボロなだけでなく、昼間からセックスシーンを流したり、もうクレーム覚悟のやりたい放題で、そこから破天荒なエネルギーがほとばしり出ていた。間違いなく、世界で一番自由な表現だった。それをみんなで、よってたかってつまんなくしてないか、それが何より気がかりです。

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コメント

結局、みんなアニメじゃなくてキャラを見ているからなんでしょうね。

ファンはアニメや作品を楽しんでいるんじゃなくて、画面に映るキャラを愛でているから、少しでも設定画から外れた絵が画面に出ると「作画崩壊!」って騒ぎまくるんじゃなでしょうか。「オレの嫁をよくも醜く描きやがったな!」って感じで・・・。

実際、バストアップなかりでほとんど動かない作品でも、絵がキレイならファンは文句を言わないわけですよ。こうなると必要なのはアニメーターじゃなくてイラストレーターなんじゃないかって気もします。それならいっそのこと絵が一切動かない紙芝居で良いのかもしれませんね。

アニメの質が低下したっていうよりも、ファンの質が低下しているんじゃないでしょうか。今のファンのあり方って私は好きじゃないですね。

投稿: ドラゴン山崎 | 2009年3月10日 (火) 15時26分

ちょっとズレルかもしれないけど、最近、トラウマのこととか考えていて。これはアニメに限ったことでもないんだけど、自分が子供だった頃のテレビって、意識してなのかはわからないけど、もっと攻撃的だったような気がして。心地良さ以上に、痛い記憶のが多いというか、まぁ、無邪気な感じでエグイことやっていたというか。よくよく考えれば、9時台の洋画劇場でバンバンホラーやってたりしたし。なんかそういうようなコトと通じるもんを感じました。的外れかもしれないけど。

投稿: 渡辺トモヒロ | 2009年3月10日 (火) 16時04分

■ドラゴン山崎さま
その通りだと思います。キャラというより、ファンが愛しているのは「キャラの正面顔」だったりするのかも知れませんよね。
紙芝居も、ひとつの生きる道じゃないでしょうか。あくまで、僕らには面白くないなというだけで、アニメはイラスト的に形を変えて続いていくのかも知れないなあ、とも思うのです。それは、とても怖い気がしますけれど……。

■渡辺トモヒロさま
今日、打ち合わせで80年代のアニメ誌を山ほど読んできたんですよ。イヤな刺激を受けましたよ(笑)。ちょっとしたOVAの広告ひとつとっても、異常に自己主張が強くて、今夜にでも夢に出そうです。美少女キャラ主役なのに、内容はスプラッタだったり。
アニメに限らず、「テレビ」という媒体は、もっと怪しく、信用ならないものだった――という出発点が、今の若い人たちとは違うのでしょうね。

投稿: 廣田恵介 | 2009年3月11日 (水) 00時48分

初めまして。アニメージュ拝見しました。

「それでもテレビアニメは成立する」とは言い得て妙だと思います。マクロスで言えば、紙芝居があり、27話のような総力戦がありと破天荒な芸によって作られてました。今であれば紙芝居回は大批判でしょう。
それさえ笑い話に出来るような度量が昔はありましたが、今はない。DVD売り上げを重視するビジネスモデル、キャラクター至上への変化など要因は様々でしょうが、アニメを「観賞」するのではなく、単に「見る」だけになった視聴者の変化が最も大きい気がします。如何に日本のアニメーション文化が優れているとはいえ、ニッチな物も多くありますし、受け手も多少なりとも画面、フィルムに対して興味を持つ必要があるのでは、と。キャラクターとストーリーを追うだけがアニメではないと思う故に。

投稿: T2 | 2009年3月11日 (水) 02時25分

■T2様
はじめまして。アニメージュをご覧いただき、誠にありがとうございます。

>アニメを「観賞」するのではなく、単に
>「見る」だけになった視聴者の変化が最も大きい気がします。

その通りだと思います。これまでは、「見る側が悪い」という言い方はなるべく避けてきたつもりなのですが、もうそうは言っていられない気がしてきました。
仰るとおり、「画面、フィルムを見る」という意識が受け手に欠けているため、刺激に対する耐性も弱いのではないでしょうか。だから、「作画崩壊」という手近な言葉に封じ込めて、「なかったこと」にしたいのでしょう。それはおそらく、アニメだけの問題ではない気がします。

投稿: 廣田恵介 | 2009年3月11日 (水) 03時12分

 ガンダムで戦争論やニュータイプ論について語る面倒な連中もいたし作画ミスをアニメ雑誌で特集していたりで、現状が特別に悪いとは思えません。
 アニメージュはまだ拝読しておりませんが、作画の個性が強すぎる場合や今回の件では「悪夢の中のバーディ」というような設定を(作画後に書き起こしてもいいので)ホームページで公開していれば納得する人も多かったのではないかと思います。

投稿: 39歳児 | 2009年3月11日 (水) 16時38分

■39歳児さま
はじめまして。書き込み、ありがとうございます。
確かに、80年代当時、アニメファンが特に優秀であったわけではなく、僕も含めておバカさん(笑)だったと思います。ただ、おバカさん同士、怒鳴りあいに近い議論もしてましたよね(アニメ誌の読者コーナーも含む)。今はネットでコソコソッと発言して異なる意見の潰しあいをしているように見えます。

『バーディー』の件は、反発があって当然だし、百パーセント納得させることは無理でしょうね。いわゆる「擁護派」の人たちの言い分で、みんなが「啓蒙」される状況がいいとも思えません。
僕は、雑多な意見が飛び交う生き生きした状況があれば、「それで良し」です。白か黒か決める必要はないんじゃないかと思うのですよ。

投稿: 廣田恵介 | 2009年3月11日 (水) 17時18分

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