■マクロス、ランカ、海獣の子供■
昨夜の『マクロスF』は、オープニングが良かった。知らない人のために説明しておくと、楽曲は中島愛さんの『星間飛行』で、ランカ・リーの素材だけを使った特別映像だったのだ。本編が沈みがちな分、せめてオープニングは明るく……という誠意が感じられて良かったよなあ。クレジットを見ると、このオープニングをつくったのは竹内康晃さん。『地球少女アルジュナ』の頃から、河森組では編集マンとして参加している人だ(『アルジュナ』でのクレジットはデジタルコーディネート……だけど、もっといろいろやっていたと思う)。
『アルジュナ』のDVDに収録されていた『KENjIの春』のPVも竹内さんの仕事。『アルジュナ』が文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品に選ばれたとき、本編未使用BGM(もちろん管野よう子作曲)に合わせて会場展示用映像をつくったのも竹内さん(この映像はDVDに収録されてない。めちゃくちゃカッコいいのに)。
そもそも、バンクを使って新しいストーリーをつくるのは河森正治の必殺技で、初代『マクロス』でも『アクエリオン』でもやっている。『アクエリオン』の後期OPも、バンクをセンスよく活用していた。『マクロスF』のアイキャッチとEDは、ありもの素材を使って撮影部がつくっていたはず。バンクを使っても十分に面白い映像がつくれるんだ、という気風が河森組の間に流れているんだと思う(バンク=手抜きという反応しか出来ない人には理解できないだろうけど)。
それで、今回のランカ・リー版の幸福感いっぱいのOPを見て思ったんだけど……もう、本編もこれぐらい軽くていいんじゃないの? 戦闘、ラブコメ、歌だけでいいではないか。セルフ・パロディを解禁したんだったら、初代『マクロス』並に自由気ままにバカを貫いてほしかった。陰謀を企む大人を出して、そいつらに何もかも押しつけてしまったら、もうその大人たちには死んで償ってもらうしかないじゃないか。それは単に「ダーク」なだけであって、若い主人公たちが苦難を乗り越える「ハード」な物語とは違うと思う。
やっぱり、『マクロスF』は中島愛さんがデビューして、CDもヒットして、現実に起きているお祭をひっくるめて「物語」だと思うんだよな。今は、本編がそれに水を差しているように見えてならないなあ……。
来週、友達ともう一回『ポニョ』を見てこようかと思うのだが、試写で見たとき比較対象として頭に浮かんだのが『海獣の子供』だった。『ポニョ』に比べれば、『海獣の子供』の海は物理的すぎて神秘がないな、などと思っていたら、第三巻で、いい感じに発狂しはじめた。やっぱり「怖い」と思わせるぐらいじゃないと、神秘は描けない。
小さい頃に読んで印象に残ってる絵本って、ぜんぶ怖かったもの。足元から常識が崩れていくような恐怖がないと、世界の神秘には触れられない。
だから、自分の常識に疑いを持ってない人ほど『ポニョ』を見て怒るんだろうな。
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コメント
「マクロスF」は、録画してまで見たい番組のひとつです。
で、ご指摘のオープニングですが、
あたしゃ、びっくりしましたよ。
でも、悪いとは思わなかった。
というか、やりやがったな!と面白がっちゃいました。私、幼稚だねぇ。
「マクロスF」のストーリーについては、今んとこ「ダーク」だとは思うんですけど、「この先なんかやらかすんじゃないか?」とか思って見てます。
廣田さんの「本編もこれくらい軽く」ってのには、ついていけません。ごめんなさい(笑)
投稿: DH98 | 2008年8月 4日 (月) 22時40分
■DH98様
今回のオープニングみたいな、ささやかだけど愛のこもったサプライズがあると(河森さんの発案だそうです)、「ああ、河森アニメだなぁ。最後まで付き合うか!」って気持ちにさせてくれますね。
仰るとおり、この先の展開で、爽快にダークな雰囲気を吹き飛ばしてくれるんじゃないか、と期待もしています。
ただ、初代マクロスの無計画性にも学ぶべきところはあったんじゃないかと……今は吉野さんという四番バッターが、ソツなく打率を伸ばしている感じがしてしまうんです。
投稿: 廣田恵介 | 2008年8月 4日 (月) 23時17分
今回、Fの目指すものが『てんこ盛り全部乗せ』なので、ダークな部分はプラスから来てるんですかね。
軽い、アイドルストーリーに特化したFはスピンオフのOVAとか、コミックで見てみたい気がします。
ポニョ、見に行く時間が当分取れそうに無くて…。
今日本屋に並んでた背景美術集を誘惑に負けて立ち読みしちゃいました。
…あのドックが見られるなら絶対映画館行きます。
あの発想は無かった。凄いや。
…ワンフェスエスカレーター事件、マスコミはまたやってます…。
なんだかなあ、もう。
投稿: てぃるとろん | 2008年8月 4日 (月) 23時35分
■てぃるとろん様
ああ、背景美術集なんて買ったらダメですよ! でも、動きがすべてのような映画なので、背景はセーフかも。気持ちは分かりますけどね(笑)。
>ダークな部分はプラスから来てるんですかね。
確かに『プラス』も陰謀話で、死人も出ていますが、今の『F』のように神経を逆なでされるような悪意は感じなかったんですよ。『F』は陰謀のための陰謀になっちゃってる気がして……謎を散りばめるのも、引っ張りのためのテクニックでしかないような……。
むしろ、今回のオープニングにスタッフの「本気」を感じてしまうのです。「どうしても、これじゃなきゃイヤなんだ」という。
>ワンフェスエスカレーター事件
マスコミは「客が多すぎ、エスカレーターの重量制限を越えた」で決着しそうですね。初期には、例によって偏向報道があったようですが……
投稿: 廣田恵介 | 2008年8月 5日 (火) 00時18分
テラセンセ、コニャニャチワー!
マクロスF、楽しんでみてますヨ。
正直、ヒロインがかたくなすぎてついていけなかった「マクロス0」のあとだったんで、あんまり期待していなかったんですが、「F」はエンターテイメントに徹している部分がなかなかグー。
久々に、毎週楽しみにして見れる作品という感じです。深夜枠でなく、午後5時台とかの時間帯だったら、ティーンとかにもっと見てもらえたんじゃないかと、ソコだけが残念。
指摘されている「ダークな部分」は、物語に視聴者を惹きつける伏線や、起伏をつける意味で必要なんじゃないかと。初代マクロスだって、地球司令部というかたくなな大人たちが、なんとかキャノンっていう秘密兵器をこっそり作っていて、やめろと言うのに打っちまった、みたいな部分もあったし、いいんじゃないかと。
イマイチだと思っていた、シェリルの「射手座★午後九時 Don't Be Late」もヘビロテで聴いてます、今!私、単純なんですっ!
投稿: きゃてぃーなかぢま | 2008年8月11日 (月) 05時19分
■ きゃてぃーなかぢま様
おはようございます。『マクロスF』の本質は、実は「表層的」と捉えられがちな歌や初代オマージュの部分だったんじゃないかと最近は思います。13話以降が「本筋」なのでしょうけど、死んでもらうしかしょうがないような悪辣な大人たちを出した時点で……
>物語に視聴者を惹きつける伏線や、
>起伏をつける意味
……それ以上の意味はないように思うんです。
大人は救いがたい悪者だから、若い主人公たちは死ぬ気で頑張れって話に、僕は共感できません。
投稿: 廣田恵介 | 2008年8月11日 (月) 06時43分