■非現実の王国で■
EX大衆 5月号 発売中
●愛ドルのリコーダー 秦みずほ
●中島愛里
●南明奈
●尾上綾華
それぞれ、グラビアポエム執筆。ふと気がついたが、俺はこういうセクシャルなものの中にギャグとかジョークの類が加わると、途端にイヤになるらしい。写真にそういう要素が入っていると、いつも苦労する。
さて、何本か観に行きたい映画はあったが、まずDVDになってもTSUTAYAに入りそうもな い、『非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎』を(渋谷シネマライズにて)。ドキュメンタリーとしては凡庸なのかも知れないけど、題材が題材だけに、予備知識のない人が見たら、かなりショッキングな内容では……だって、引きこもりの老人のつくった、超有害図書だもんね、これ。いくら架空の世界の話とはいえ、奴隷の子供たちが大虐殺されるストーリーだよ。ちゃんと画面に絵も出てくる。なのに、ナレーションはダコタ・ファニング。悪夢のような凄惨なシーンにも、ちゃんと声を当てているのが素晴らしい。この勇気あるキャスティングのおかげで、映画に不思議な温かみが加わった。天国のダーガーも、きっと喜んでると思う。
それで、この映画の何がいいって、ダーガーのあの絵がね……動くんだよ、ちゃんと。セリフも入って、部分的にだけど物語調になっている……すごいね。この調子で全編、ダーガーの夢想したグランデリニアン大戦争とヴィヴィアン・ガールズの活躍を見たかった。
それで、今回あらためて思ったけど……彼の絵は、涙がでるくらい美しい。純粋なんだ。映画を見終わってから階段を上がって、渋谷のスペイン坂に出てみたら、街中に貼ってある広告ポスターの醜いこと! もう、色から何から、添加物満載って感じだ。あのギャップは、すごかったな。
もし、ダーガーを知らない人がいたら、斎藤環著『戦闘美少女の精神分析』のダーガーの章だけでも読むといい。文庫にもなっていたはず。
映画の中で語られていたとおり「彼は、テレビもラジオもない部屋に住んでいたからこそ、膨大な物語を紡ぐことが出来た」。補足すると、彼にはマーケティングという概念がなかった。「こうした方がウケる」なんて、彼は微塵も考えなかったのだ。ダーガーの為したことを考えると、もはや「表現」という言葉すら甘えに聞こえてくる。
彼の人生の孤独は、作品づくりによってすら埋められなかった。この映画は全体に雑然としているけど、ダーガーに対する尊敬と慈愛だけは、しっかり感じられる。ラストは、ダコタ・ファニングの「おしまい」という柔らかい言葉で締められ、トム・ウェイツの哀切に満ちた歌声が流れて終わる。
この映画を見たあとでは、クリエーターだ、表現者だ、アーティストだ、そんな言葉が本当に空しく聞こえる。なんて僕らは、虚飾にまみれた世界に住んでいるのだろう、と呆然となるのだ。
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