■アニメじゃない!■
とりあえず、近くのTSUTAYAに行ったら、『時かけ』にも『パプリカ』にも目をくれず、『ICE』 を借りよう。何しろ、あの秋元康がプロデュースしたOVA。しかも、どう考えても秋元と接点があるとは思えない小林誠が監督。もう、サンライズのアニメにCLAMPが参加するなんていうショックのはるか斜め上を行っている。
(あ、ごめん。秋元×小林の接点といえば『ZZガンダム』ですね……それでも作詞家とメカデザイナーって交流あるんだろうか?)
「こんな得体の知れないアニメに金を出すぐらいなら、もう一回『時かけ』を観るよ!」という人は、うまく社会に適応できていると思う。ただ、その人生は破綻のない退屈なものになるだろう。
さあ、怖れずに『ICE』をレジへ持っていくんだ!
内容は近未来の変わり果てた東京……え、2012年? ロボットとか兵器とか、いっぱい出てくるんですが。とりあえず来年には、東京は廃墟と化して、世界中の男性は死滅するそうです。「これは女性キャラをいっぱい出すためのご都合主義的な設定だろう」と私のアニメ脳は類推する。が、そうではない。なんかこう、抜き差しならないガチな雰囲気、「何のためにこういう設定にしたか分かりますか、皆さん? ちゃんと僕のメッセージ伝わってるかな!?」という原作者でもある秋元康の怒声が飛んできそうで、思わず姿勢を正してしまう。(←2008年、ようするに来年、日本には騎士団が誕生してるそうです。来年ですよ、来年)
もうね。声優初挑戦のAKB48の棒読み演技なんて、付録みたいなもんですから。普段、我々がアニメを見ている時に使っている回路というかコードが、ブチブチちぎれていく。怖いよ、これは。『グレンラガン』の第四話を見て「作画崩壊」とはやし立てたお子さまたちが、俺はうらやましい。表面的なところで騒げていいなーと。
だって、『ICE』は作画とかストーリー以前に、制作者の「考え」が読めないんだから。これは、見ていて追い詰められる。笑ってすませられない。「ははは、秋元はアニメが分かってねえな」と笑ってすませられれば、どれほど楽だろう。
赤ん坊をマシンガンで撃ち殺したり、女性キャラの頭がもげて転がったり……でも、秋元は『イデオン』を意識してるわけでも何でもない。「彼の中では」表現として必要だから、やったんだ。彼には確信がある。そこが怖い。
この、コードが断線していく不安感は、猟奇殺人のニュースを聞いたときに感じるザラリとした不気味さに最も近い気がする。
それで、ちょっと気がついたんだけど、まさか、『ICE』ってタイトル、「愛す」とかけてる? 第一話のサブタイトルも「はと-HEART」だし、これはダジャレじゃなくて、本気だろうね。何に対して、どう本気か分からないから、怖いわけだけど。(←メカも世界観も、どこか『コードギアス』風)
だから、我々はメディアに接するとき、ある種のコンセンサスを維持しているわけだよね。その「盟約」を限りなく強固にして、もし裏切られた場合(たとえば、うっかり『ICE』を見てしまった場合)、「出来がよくない」と叩くことで自分の「正気」を保つ人がほとんど。特に、安定した作画が当たり前の時代に育った若いアニメファンはそうなんじゃない?
僕はどっかで、コンセンサスを裏切られることを期待している。得体の知れないものに接してみたい。むき出しの狂気に触れないと、自分の正気度が分からないからだ。
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コメント
秋元×小林といえば「シックスエンジェルス」もありましたよ。
秋元氏が企画・原案・製作総指揮、小林氏が総監督・ビジュアルコンセプト・メカニックデザインでクレジットされています。
http://www.kenmedia.jp/anime/6angels/
投稿: | 2007年6月 4日 (月) 21時25分
■( )様
なんかさみしいので、どうでもいいその場かぎりの名前をつけてください。
>「シックスエンジェルス」
ああ、はいはい、観ました観ました!
ありがとうございます、嫌な記憶を思い起こさせてくれて。これもなんか「思考の読み取れない」アニメでした。中途半端にCGが使ってあって。
「秋元×小林アニメ」というのは、いちど特集すべき題材かも知れませんね(オトナアニメとかで・笑)。
投稿: 廣田恵介 | 2007年6月 5日 (火) 01時44分
いみわかんねーよ アホ
投稿: ghjんgh | 2007年6月 7日 (木) 22時30分
↑
検索ワード「ICE アニメ 感想」で来た人。そんな人もおるんやね。
投稿: 廣田恵介 | 2007年6月 8日 (金) 18時05分
この記事ってアニメに合わせてワザとつかみ所が無いような構成をさせているんですか><
違ったらすいません
投稿: ARTIFACTから来ました | 2007年6月14日 (木) 14時14分
■ARTIFACTから来ました様
いえ、単に僕の文章に論理性がなく分かりづらいだけです(笑)。
ただ、『ICE』を「大体こんなストーリーで、とりあえず感想としては~」なんて普通にレビューできる人がいたら、ちょっと感心するかも。
それだけ難解なアニメであることは確かです。
投稿: 廣田恵介 | 2007年6月14日 (木) 18時35分
うっせぇ しね
投稿: | 2007年6月17日 (日) 05時26分
↑
検索ワード「ICE アニメ 感想」で来た人。『ICE』のファンなのかね。
投稿: 廣田恵介 | 2007年6月17日 (日) 13時43分
古い記事へのコメントで申し訳ありません。
ぐいぐいと読ませる文章に惹かれました。
恐怖の肌触りが伝わってくるようです。
廣田様も、「むき出しの狂気」に真っ正面からはぶつかってないように読み取れます。
(正面からぶつかったら、ぶつかる方も狂気ですが)
合理化の手段に「出来が悪いと判断する」と同様、「認知不能なモノとして分類」を用いてますね。
ただ、いったん分類しておいて、それを分析しようとおっかなびっくりつっつく(「特定のキーワードがだじゃれであるとして、何処まで本気なのか考えてみる」等)あたりが面白く、リアルな恐怖を感じました。
投稿: アオミドリ | 2007年8月25日 (土) 23時16分
■アオミドリ様
書き込み、ありがとうございます。
誰の言葉か忘れてしまったのですが、「こちらが深淵を覗きこむ時、深淵もまたこちらを覗きこんでいるのだ」という言葉があったと思います。
狂気に対面するときは、自分が狂っている可能性があるわけで、それが何より「怖い」。その淵から帰ってくる時、どうしても「秋元康は本気だ。ただ、俺にはわからない」と言語化する必要があったんですね。
あまり言い訳になってないと思いますが、狂っていても真剣につくられた作品は、真剣に見るべきだと思います。その姿勢は貫いたつもりですけどね。
投稿: 廣田恵介 | 2007年8月25日 (土) 23時38分
一発でばれました。
感想はその言葉のままです。
良く引用される言葉なので(と、言い訳)私も原点を忘れました。
最初に知ったのはP・K・ディックの著作か、K・W・ジーターがディックの言葉として引用した解説だか、まぁ、あそこらへんです。
(すいません「忘れた」じゃなくて「知らない」ですね…)
狂気を感覚するときは、自己の発狂不安が惹起される時でもあるので、廣田様の文章の大意は伝わってると思います。
一時間ほど他の記事も拝見しました。
「全部凄い!」という感想にならずに自分ではほっとしてます。
この記事の「狂気に対する恐怖」観は、妙な生々しさがあり際だってます。
多分廣田様の狂気がうっすらはみ出してるのだと思います。
またこの様な文章に出会いたいです。
(全部読んでないので、このブログに沢山あるのかもしれませんが)
投稿: アオミドリ | 2007年8月26日 (日) 00時15分
■アオミドリ様
「こちらが深淵を覗きこむ時~」は、確か『FBI心理分析官』に書いてあったような気がします。
この記事だけ、やけにヒット数が多かったのは、他のブログで紹介してもらえたのと、ネタが面白かったからですよ。
あとは、『ICE』を真面目に見た人が、あまりいなかったからでしょうね。
このブログ自体は、いつやめようかずっと考えてます(笑)。
投稿: 廣田恵介 | 2007年8月26日 (日) 14時38分