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2007年5月 6日 (日)

「フォークストン・モデラーズ・コンペティション」

「私たちは、“腕っこき”なんです」。女の子がそんな言い方をするのは嫌いなんだが、とにかく彼女はまだ15歳なので、反論はやめにした。
ジャバ・ザ・ハットの造形物なら、高校生の頃に粘土とパテでつくったことがあった。その頃、俺はあんた方よりちょっと年上だったが、当時は材料も資料もとぼしくてね。何度も映画館に通ったよ。そうそう、俺が初めて女の子と観た映画が『ジェダイの復讐』だったんだ。そう言うと、彼女はちょっと哀れむような感じの嫌な笑い方をした。おいおい、ホントなんだぜ? 俺は頭をかきながら、彼女たちのブースを後にした。まあ、頑張ってくれ。コンペの締め切りまで8時間。15歳だろ。ならば、時間は君らに味方してくれる。三人がかりなら、きっと間に合うよ。
彼女は制服のそでをまくり上げると、仲間たちに指示を出しはじめた。

映画に出てくるジャバ・ザ・ハットを造形したのは、スチュアート・フリボーン。ヨーダの最終的なデザインを決めたのもフリボーンだ。彼は天才だった。今でも天才だ。
ヨーダのモデルは、彼自身とアインシュタインだったんだ。賢者は、賢者をモデルにつくられたってわけだ、知ってた? もっとも『帝国の逆襲』が公開されたころ、あんたのお母さんは小学校か幼稚園だったと思うがね。
さて、どうだったでしょうか。そんなことを言いながら、バーテンダーはグラスを磨いている。
『スター・ウォーズ』がだめなら、『サハラ戦車隊』の話をしようか? ハンフリー・ボガート主演のやつ。撤退戦の映画だ。最近は、撤退戦という言葉が好きで、仕事の席でもよく使う。肯定的にね。この言葉だけは、若いやつには使わせん。
二杯目のマティーニが空になったので、俺は部屋に帰ることにした。「四分たてば、僕は30」とホテルの廊下で鼻歌をうたった。「ワインとマティーニ、どっちを選ぼうか

翌朝、二日酔いのままコンペ会場に行った。
俺の顔を見るなり
、彼女は目をふせた。「Hさん、お引取りください」。おいおい、実物大のジャバ・ザ・ハットはどうなったんだ?
「出来ませんでした」。出来なかっただって? 俺は、とにかく彼女たちのブースに向かった。カポックの削りカスでいっぱいだった。作業机の上には、カエルとナメクジのあいの子のようなクリーチャーが横たわっていた。そいつは確かにジャバ・ザ・ハットに似てはいたが、まず鼻の位置が違う。ハットは、左右で鼻の高さが違うんだ。映画をよく見ろ。背中の解釈もぜんぜん違う。レイア姫が、ハットの首をしめるだろ? セール・バージの船内でレイアが、ハットの体を飛び越える。あそこでちょっとだけハットの後姿が映るんだ。
ともあれ、未完成の状態ではコンペに出品すらできない。他のチームは、ちゃんと塗装まで終えている。俺は審査員ではなく、ただのインストラクターだ。伝説のジェダイ騎士の言葉を借りると、こんな立場だ。「私はあなたをお守りすることは出来ます。しかし、あなたのために戦うことは出来ないのです」。

俺は会場を出た。雑誌に出ているような“腕っこき”の造形家が優賞するのは目に見えていたからだ。
非常階段でタバコを吸っていると、彼女がやってきた。「表彰式には出ないのか?」 彼女は黙ってうなずいた。「このタバコを吸いおえたら、俺は帰る。もう戻ってこないぞ」。
「昨日は、もうしわけございませんでした」。作業の邪魔にならないようにするためだろう、彼女は長い髪を乱暴に後ろで結んでいた。髪にはカポックのかすがこびりついている。まず、ホテルに帰ってシャワーを浴びろよ。午後いっぱい眠れば、元気も出るさ。
「もっと、Hさんのつくったジャバをよく見ていれば、完成率も上がったと思うんですけど……」
「おいおい。あれは23年前につくったシロモノだぜ?」
「あの実物は今……」
「アメリカにある」
「アメリカ?」
嘘じゃない。俺がつくったジャバ・ザ・ハットのミニチュアは、日本のコレクターの手を通して、アメリカに送られた。ケナーやハスブロのフィギュアと一緒に、貸し倉庫にでも叩き込まれているんじゃないだろうか。
彼女は名刺を差し出した。「私、会社もってるんです。造形だけでなく、デザインとかいろいろ……これを機会に、今後いろいろ教えていただれば」
いろいろ。いろいろか。便利な言葉だよ。会社って15歳でつくれるもんなのかねぇ。
「悪いが、若いやつが起業で失敗した例は、いやってほど見てきたんだ。そんなことより、来年のコンペの出場手続きでも……」 自分でも、どれだけ退屈なことを言っているかは分かっている。
彼女はおとなしく名刺をひっこめると、ラッキーストライクの小箱を取り出した。そして、束ねていた髪をほどくと、なれた様子でタバコに火を点けた。「大丈夫です。これを吸いおえたら、もう“ここ”には戻ってきません」。
俺は自分のタバコを吸い終わったので、彼女を残して非常階段を降りていった。彼女はそっぽを向いたまま、フゥッと細い煙を吐いた。

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