■ハードルは低く、志は高く■
先日、「資料」という件名で例の映画監督からメールが来た。「?」と思って開けてみると、『ムスメット』のサントラCDや漫画本、声優さんの写真が。
件名だけで本文なし。だから一体、何の「資料」なのか(笑)。そういえば、監督に「映画化するとしたら、ムスメットのヘルメットだけは一点豪華主義で有名人にデザインさせよう」と提案したのだった。その時の返事は「シド・ミードはどう?」。俺は「ルイジ=コラーニの方が向いてるよ」。コラーニの方が曲線が得意だから。あと、チョロQのデザインもやったので日本文化に理解がありそうだから。確か去年だったかな、来日したんだよね。その時に頼めばよかったな。
仕事も一段落したのでネットを見ていたら、アニメイトTVで『ムスメット』第一話が無料で見られるじゃないか。で、見ましたけどさ。このアニメを「ひどい」と言う人は、本当にひどいものを見たことがないんだと思う。 ←見よ、このレイアウトを。作画の良し悪しは、まずレイアウトを見れば分るというね。逆に、こういう落ち着いたレイアウトがあると、手を抜いたカットがばれやすいんだけどね。でも、全体に作画が丁寧で、まずは好印象。
あと、このシーンでマスコットキャラの宇宙人を「漬けるぞ!」と脅かすギャグがあって、無防備にも声出して笑っちゃったよ。←これらのキャラは脇役とモブなんだけど、文句なしに可愛い。モブまでちゃんと可愛く描く、この実直さがいい。
ちなみに、左のキャラは関西弁。右のキャラは語尾が「~ありんす」。 廓言葉ってやつですな。何とも苦し紛れなキャラの描き分けなんだけど、作り手の視線はちゃんと視聴者の方を向いている。そこが大事。←作画的に一番よかったのは、このカット。敵に襲われそうになる主人公をムスメットに変身した姉が助ける。奥の白いのが敵の移動した軌跡。だから、主人公と姉は画面手前に倒れてくるんだけど、一瞬、体がふわっと浮いて、それからドーンと倒れる。敵が通り過ぎるときの衝撃で体が浮いちゃってるわけ。アクションのつぼを押さえた作画だ。
←あと、第一話はガンダム(というかシャア)のパロディなんだけど、ちゃんとオチまで引っ張るのが偉い。左の透過光のカットなんて、かなりガンダムっぽいでしょ?
だから、このアニメは自分たちで仕掛けたアイデアに従順。最後までケツを持つというか。
『ムスメット』放映の2004年というと、俺が見ていたタイトルだけでも『忘却の旋律』、『鉄人28号』、『恋風』、『巌窟王』、『サムライチャンプルー』 、『十兵衛ちゃん2』……と意欲作ばかりだったんだ。『忘却~』の宣伝プロデューサーが「今期から、全体に“キャラ”より“作品の質”へ軸足が戻ってきた」と言っていたのを思い出す。
『ムスメット』を見ていて、何とも気持ちよかったのは、とにかく“計算”がない。確かに上滑りしているギャグも散見されるし、肝心の変身シーンも薄ら寒いんだけど、とりあえず誰が見ても分かるようにしている。一見さん歓迎の誠実さがあるんだ。だって、『ハルヒ』なんて一見さんお断りでしょ? ラーメン屋を出た後に「どんなダシを使ってあったんだろう?」といろいろ考えなきゃ味を思い出せない。というか、食べ方まで店主が決めてて、食べ方を心得た常連だけが得をする。今のアニメってそうなってると思う。
『ムスメット』は、ハードルが低い。低すぎて、受けなかったんだ。だが、反省する必要はまったくない。今、こうして俺が学ばせてもらっているのだから。
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