■ひとつ、手放す■
「海洋堂マニアックス」が面白い。あまりに面白いので、布団の中でも電車の中でも路上でも読んでしまう。これだけの仕事を一人でやった人間がいるのだ、と思うと、たかが数ページの原稿に躊躇している自分が矮小に思え、滞っていた仕事を半日で終わらせることが出来た。いい本は人を動かす。
もちろん、内容的にはヴェネチアの恥ずかしいアレとか、村上隆とか、ロクでもないネタが多いのだが、みんなが避けて通るところへわざわざ取材に行く姿勢がいい。その姿勢というのは、俺にとっては嫌がらせにも近いが、「じゃあ、お前も同じぐらいの質量の仕事してみ?」と紙面からあさの氏が挑んでくる(ような気になる)。
それでもちょっと言いたいのは、Chapter03の村上隆インタビューの最終ページ。村上本人がインタビュアーのあさの氏のことを語っているんだが、「ぜひ、どこかの大学のヘッドクォーターの方! あさのまさひこをおたく学の教授に迎え入れてくれませんか?」 これが書かれたのがインタビューの行われた04年7月だとしても、まだ「おたく学」とか言ってんの? 俺はこの人の作品がどうとか言うより、権威に弱い上に、自分の頭の悪さを許してもらおうとする怠惰さ・愚鈍さが嫌なんだ。とは言っても、作品が世に出るからには必ず理由があって、ドス黒い下卑たニーズによって、この人の作品は世に垂れ流されてるんだろうと思う。
あんなやつに何か言われなくても、アートは勝手に生まれていく。動画革命東京とか、ショックでしょう、素直に。
「ひとつ得るためには、ひとつ手放さなくてはならない」という信念を俺は持っているので、長くやらせてもらってきたレギュラーの仕事をひとつ降りることにした。で、担当者から「そういうことなら、今夜は飲みましょう」と提案され、彼は徒歩で家庭に帰ったが、俺は朝までキャバクラにいた。仕事断るぐらい忙しいのに、もう本気で死ねよ、と我ながら思った。
(でもひとつだけ言い訳すると、飲んでしまうと原稿なんか書けないんだし、締め切りさえ守れれば、それまで何をしようと俺の勝手ではないだろうか。なので、みんな怒らないで欲しい)
そして、「ひとつ手放す」ことを自分にしては珍しく順序だてて終わらせてみたら、予想だにしない、贅沢な仕事を「ひとつ得る」ことが出来た。
「手放す」勇気と、つめの垢ぐらいの才能さえあれば、世の中やっていけるんじゃないか。
| 固定リンク
コメント