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2006年2月15日 (水)

「出発日」

 他の生徒への挨拶を終えると、発車時刻まで、いくらも時間がなかった。仕方なく、私は帽子をかむりトランクを抱えたまま、二階の彼女の部屋へと急いだ。

 いつも開けっぱなしのドアをくぐると、彼女はピアノの稽古をしていた。そして、こちらに背中を向けたまま、明日が音楽の試験だから聞いてみて欲しい、と言う。こちらは今すぐにも発たねばならず、少しでも顔を合わせて挨拶したかったのだが、私は黙ってベッドに腰をおろした。
 それは、ごく簡単な練習曲だった。リズムを取っているつもりか、彼女は鼻歌混じりに弾いていた。こちらは真面目に聞いているのに、もう少し年相応に振る舞えないものなのだろうか……とにかく曲が終わったので、私は「じゃあ、元気で」とか何とか口走って部屋を後にした。譜面をめくりながら、彼女は生返事で答えた。とうとう顔を見られなかった。今日限りで会えなくなるのは知っていた癖に……彼女の子供じみた態度に少し苛々しつつ、私は時刻を気にしながら忙しく階段を下りはじめた。と、そこで突然に足が止まった。

 階段の途中のガラス窓から、裏通りの坂道が見える事は知っていた。日の射さない陰鬱な坂道だったが、今日に限って向かいのマホガニーの花壇に黄色や紫の花が沢山咲いていたのだ。私は、呆然とガラス窓の向こうの花々に見とれた。彼女のつたないピアノ曲が背後から聞こえている。
 少しだけ満足すると、私は階段を再び駆け下りた。

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オマハ族の格言によると「夢は人より賢い」。
また、夢の中で精霊が現れるのはアメリカ・インディアンの世界観では常識的なことであるようだ。
上に書いた夢がどのような暗示なのかはサッパリ分からないのだが、
僕が書き溜めてある夢には、ほぼ例外なく女性が登場する。
……精霊か。うーん。精霊ねぇ。

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