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2006年2月 9日 (木)

■It's a Small World■

 9階という高さのせいか、風が激しい。隣室のベランダに詰まれたゴミ袋のひとつがこっちまで吹き飛ばされて来て、洗濯物の下でからからと転がっている。ちょっと腹が立ったので隣のベランダへお返ししたのだが、今朝また戻ってきていた。
 それがまた触るのもはばかられるほどバッチイ色をしたビニール袋なのだが、俺はもうあきらめてそいつをつまむと、部屋の中にあるもっと大きなビニール袋の中に入れてやった。「外は寒かったろ? ほら、仲間たちが待っているよ」 隣室のゴミもこの部屋のゴミも、たまたま居場所が離れていたに過ぎない。

 実は、我々が触れている世界というのは、たったひとつの大きな海原で、目に見えているのはひとつひとつの波頭に過ぎない。憎たらしいあの野郎も愛しのあの子も、実はひとつの海から生じた波のひとつひとつ。ATMの行列に並んだ客たちすべて、コンビニのレジの前で小銭を数えているお婆さん、それをイライラしながら待っている若い店員、もう二度と通らないだろう町角ですれ違ったホームレスも、蕎麦屋のテーブル席で怒ったり笑ったりしながら食事していた家族も、とうとう触れられなかったあの細い指先も、丼を受け渡しする時なぜか確実に触れ合ってしまうオバチャンのぶっとい指も、実はみんなひとつ。分かりにくければ、『惑星ソラリス』でも見てくれ。つまり、ああいうことだ。

 そう考えると、すべてが空しいような愛しいような不思議な気持ちにならないだろうか。後悔もないかわりに、期待もない。それが世界の実相だ。腹を立てても大声で笑っても、どうあがいても世界はひとつきりで、たくさんのいろんなパーツは大きなひとつのものが別々の現れ方をしているに過ぎない。そう思わない? 俺にはそうとしか思えないんだが。で、「この話は、何だかよく分からない」と首をひねっているアナタも、ヒモをたぐっていくと残念ながら俺と繋がっているわけ。だから、いがみ合っても意味ないわけ。あるいは、いがみ合わない努力ぐらいはしなきゃならないわけ。
 もう一度言う。すべては大海の波頭。だから、安心していいし、絶望することはない。というか、絶望したって無意味なんだよ。楽しめ、としか言えない。世界と付き合うコツは、楽しむことぐらいしかないからな。

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