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2005年12月 9日 (金)

■一夜■

 この近辺の家々がクリスマスシーズンになると飾り付けに熱心なのは、たぶん都会が遠いせいだろう。たとえメディアが植えつけた幻想だとしても、クリスマスはロマンの源泉だ。馴染みのない街、たとえば日比谷だとか赤坂だとかそんな大人っぽい地名だとか、そこに飾られているだろう大きなクリスマス・ツリー、行ったこともない高級レストランのディナー、夜景の見えるバーであるとか、それらはメディアが加工したがゆえにいっそう華やかで、現実味が薄いぶんだけ蜃気楼のように美しいものに感じられる。
 近所の花屋ではガラスケースの向こうに花々が今やおそしと出番を待ちわび、焼きたてパンの店はケーキの予約の張り紙を出している。商店らしい商店は、たったそれだけの通りだが。
 横断歩道の近く。塀の上の猫に話しかけている人がいた。そんな季節なのだろう。坂道をくだっていくと、宵の明星に手が届きそうだ。届くのかも知れない。

 深夜のデニーズ。開いた本に顔を埋めるようにして何事かつぶやいている女の子。辞書は付箋でビッシリだ。どこの国の言葉なんだろう? 何時間も目を上げない。「どこの国に行きたいのですか?」と話しかける勇気もない。午前3時近く、お腹を空かせたカップルが席につく。ウェイトレスは韓国なまりだ。
 東京駅。飲食店はまだシャッターが下りたままで、弁当屋だけがにぎわっている。新幹線乗り場の前。こんな朝から、東京を離れる人々。みな、お腹を空かせている。お腹が空いても、東京を離れたい人々、離れなくてはならない人々。
 向かい合わせになった席のひとつに座ると、小学校の頃によく耳なじんだ歌が頭の中で奏でられた。「明日はどこから 生まれて来るの 私は明日が 明日が好き すてきな事が ありそうで 私は明日が 明日が好き」

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コメント

ひろたさま おはようございます。

東京で一番すてきなのは、始発間近の駅周辺、夜明けの首都高速。

夜っ引いて働いた人の、家に帰れる喜び。
これからの人の、一日分の気合。

昨日のエネルギーの残りと、充填された今日のエネルギーがごっちゃになった、なんとも不思議な感覚になります。

空気もわりときれいですしね。

・・・東京の「明日」って、いつくるんでしょうね。

早朝はいつも、昨日と今日がごたまぜになってるような気がします。

投稿: TAKA | 2005年12月11日 (日) 10時32分

■TAKA様
だから、夜と朝の間に、もうひとつ時間帯があると思うんですよ。
始発ごろの電車に乗る人たちは表情があるというか、自分の事情を隠してない感じがします。
そんな生の表情を見て、あれこれ想像するのがまた楽しい早朝です。

投稿: 廣田恵介 | 2005年12月12日 (月) 06時45分

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