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2005年11月28日 (月)

「A.M9:40」

寝てました?

ごめんなさい

いい天気ですね

え? 誰でしょう?

あのね 今ね いい天気を見たい人と「いい天気ですね」って言いあってるの

あら 私 間違えました?

名前 聞かせてくれますか?

いくつですか? 0426は分かってるんですよ

もう1本 飲もうかな?

へへへ キャリア・ウーマン

市内です 八王子

テレビかえていいですか?

ごめんなさい

日曜日? アハハ、日曜日だっけ?

貴方も昼間から飲むの? どうして?

むっかつくーこの女って思ってんでしょ

でも もう少し貴方の声を聞いていたいなーなんて

ごめんなさい

むかついてます?

あはは 落としちゃった

聞いてます?

あのね 聞いてもいいですか? ひとつだけ

あなたは、何が楽しくて毎日生きてるの?

私なんて もう死んじゃってもいい

ごめんなさい

むっかつくーこの女って思ってんでしょ

今はねぇ 弱くなってもいい時だから

あ 嬉しいですねぇ そんなこと言ってくれるなんて

あれ なくなっちゃった

私なんて そんなこと言ってもらえる女じゃない

えーとね 富士山が見える ほか?

ちょっと待ってくれます?

こんな時じゃないとね 思ってることも言えないの

私ね 今いちばん話したい人と話してるんだなーって

あのね 今 いまひとつだけ力をふりしぼって言わせて下さい

今ね この時間が大事だって

むっかつくーこの女って思ってるんでしょ

お酒飲むとね どうでもよくなっちゃう もうどうでもいいなって

もっと飲みたくなっちゃった

会おうか?

オーケーオーケー あはは

え? ビールですよ

そう言ってくれる人がね そばにいてくれたらなぁ

んー 大丈夫よ

3の870…5の8 あれ 分かんない

あはは はい どうぞ

ごめんなさい

会おうか?

仕事は仕事 お酒はお酒です

むっかつくーこの女って思ってるんでしょ ブンナグリテーとか

あーあ まったくウザッテー 迷惑だ早く切りたいって

うん 言ってもいいよ 言ってもいいけど

まだ ここにいてくれますか?

ごめんなさい

あ もうなくなっちゃった

もしもし ちょっと待っててね

行きますよ

え? そーです あはは

ありがとうございます 話し相手になってくれて

オーケーオーケー なんでしたっけ?

スリーツーワン、ハイ


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この間違い電話に起こされた日曜日、僕は28歳かそこらだったと思う。
僕も酔っ払いだから、彼女に嫌悪は感じなかった。とにかく、もう飲むのはやめて早く寝て欲しかった。
こんな泥まみれの朝なら、僕自身もう何度も体験していた。だから、彼女を叱る気にはなれなかった。
ろくでなしを理解できるのは、ろくでなしだけだ。それで何が悪いっていうんだ。

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2005年11月26日 (土)

■Characters!■

「日経キャラクターズ ! No.11」
20051125_hyosi

●U.C .GUNDAM ARMS Vol.06 構成・執筆

ガンダンクの魅力を今さらながらに徹底解説。

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2005年11月24日 (木)

■psychology■

「フィギュア王vol.94」
94

●「パワー・オブ・アクエリオン vol.5」
●「レゴ エクソフォースが挑戦する新たな戦場!」
●「Toy's NEW ARRIVAL」
●「樋口真嗣 『日本沈没』撮影現場直撃インタビュー【後編】」
●「ピュグマリオンの小部屋」

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関係者、全員集合。
僕の人生の関係者、非常招集。
誰にでも、そんなことを叫びたくなる日がある。夢の中で小学校の同級生や職場の仲間や失った恋人たちが集まるのには意味がある。僕をつくってきたのは、彼らだからだ。

彼らは順番にサイコロをふる。出た目のままに僕は進んだり後ずさったりする。たまに呆然と立ち尽くす。ときには、何ヶ月も何年も立ち尽くす。
誰かにサイコロをふってもらわなければ、そこから動くことは出来ない。サイコロをふってくれる誰かが必要だ。その誰かを探すことが必要だ。探すためには、サイコロをふることが必要だ。

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2005年11月21日 (月)

酒とオモチャが大好きだった

 「おい、見てくれよ、コレ。まるでジャガイモだろ?」
 苦笑しながら、Oさんは『2001年 宇宙の旅』のディスカバリー号のガレージキットを箱から取り出す。
 「完成させてくんないかな、これ? 酒おごるからさ」
 当時、僕はプロのモデラーとして稼いではいたが、このディスカバリー号は難物だと直感した。ジャガイモを宇宙船に出来るほど、僕は起用じゃない。丁重にお断りして、そのジャガイモをOさんの手の中に戻した。が、結局、Oさんは酒だけはおごってくれた。場所は、いつもの池袋だ。
 酔っ払ったOさんは、「じゃあさ、キャンティーナのフィギュア、作ろうぜ」と身を乗り出した。『スター・ウォーズ』第一作に登場する酒場(キャンティーナ)の異星人バンド。当時のフィギュアメーカーからは、こいつらのフィギュアだけは出ていなかった。だから、偽モノのフィギュアを作ってマニアたちを驚かせようというのだ。
 「パッケージは俺がつくるからさ、本職の腕を生かして合作しようぜ!」
 そう、Oさんの職業はグラフィック・デザイナーだったのだ。歳の頃は30代半ば。ショーケンに似ていて、アマチュア・バンドのボーカリストを担当するロックな中年だったが、彼の本当の宝は事務所の隣に借りた狭い倉庫に眠っていた。
 そのカビくさい一室には、世界各国のマニアとトレードして集めたスター・ウォーズのトイがギッシリと整理されていたのだ。ひとしきりコレクションを自慢したあと、Oさんは深い溜め息をついた。
 「この倉庫の維持費で隣(事務所)が傾いてんだ……まあ、いざとなりゃコレみんな売っぱればいいんだけどさ」。

 ある日、彼の事務所に遊びに行くとAT-AT・スノーウォーカー(『スター・ウォーズ』に登場した四脚戦車だけど、Oさんは“アト・アト・ウォーカー”と呼んでいた)のトイが鎮座していた。全長40センチはあっただろうか。
 「どうだ、いいだろう? さっきアメリカから届いたとこでさあ……」
 彼は、腕を組んだりアゴ髭をいじったりしながら、“アト・アト”をさまざまな角度から眺めていた。オモチャと酒。それを前にしたときのOさんは、まるでプレゼントにかこまれた誕生日の子供だった。だが、僕は余計な事を口にしてしまった。
 「Oさん、この頭部のミサイル、欠けてますね。一本しかないよ」
 「おい、嘘だろ? その辺に落ちてない? お前も探せ」
 でも、ミサイルは見つからなかった。Oさんは眉間にしわを寄せ、数分間も黙り込んでいた。ミサイル一本欠けているだけでコレだ。本当に浮き沈みの激しいオッサンだった。
 そこへ、救世主が現れた。やはりフリーのデザイナーをしているOさんの弟である。弟さんは英語がペラペラだった。Oさんは、直ちに弟さんに国際電話をかけさせた。海外のコレクターに当たって、ミサイルの揃った新品の“アト・アト”を取り寄せるためだ。電話中の弟さんの横で、Oさんは「ミサイル…ミサイルが2本揃っているか聞け…ミサイル…」と呟き続けていた(日本語で)。弟さんの熱心な交渉の末、完璧な“アト・アト”入手の商談がまとまった。笑顔の戻ったOさんは、
 「な? 英語って便利だろ? お前も習っておけよ。せめて、英語のできる奥さんと結婚しろ。な?」
 そういうOさんは、もちろん一言も英語を話せないのであった。
 「んじゃ、飲みに行くか!」

 「コイツと組んでさー、スター・ウォーズの偽オモチャ作るんだよ」
 飲みに誘った友人たち(たいていは音楽業界の人だった)の前で、Oさんはいつも口癖のように言っていた。ところが、僕の方はあまり気がすすまなかった。10センチ程度のフィギュアとは言え、原型を作るのは大変な手間なのだ。当時の僕に遊びでフィギュアを作る余裕は、とても無かった。「材料を探しています」とか、苦しまぎれな言い訳ばかりして結局は手を動かさなかったのだ。そうした引け目もあって、彼の事務所からは次第に足が遠のいていった。

 それから半年ほど経ったころ、Oさんから引っ越し通知の葉書が来た。葉書には、Oさんが“TOY”と書かかれたダンボール箱を持って走る洒落たイラストが描かれていた。その時は、またいつでも飲みにいけるだろうと思っていた。
 さて、都内から郊外のマンションに転居して時間に余裕の出来た僕は、久々にOさんの事務所に電話してみた。しかし、電話は止められていた。引っ越したはずの新居にも、どういう訳か電話は繋がらなかった。事務所の近くに用事があった時に立ち寄ってみたけれど、人の気配はなかった。
 “TOY”の箱を抱えて消えてしまう前に、キャンティーナのフィギュアを作ってやれば良かった、と僕は心から悔やんだ。あのオモチャと酒の日々から10年、キャンティーナのフィギュアも正式にメーカーから発売されてしまい、僕たちの企てもついえた。
 Oさんの事務所で彼の仕事を手伝っているとき、ふとOさんは窓の外に目をやって「世間は休日かー」と呟くことがあった。僕らフリーランスは“世間”から隔絶されていることが誇りであり、誇ったからには“世間”で死に場所を選ぶべきではないのかも知れない。

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数年前、映画『ブリスター!』の公式サイト用に書いた文章をリライトしてみた。
このOさんが、映画ではテラダというキャラクターとなって登場した。
テラダは中年なのにスケボー持ってたりして、本当にカッコいいキャラだった。

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2005年11月18日 (金)

正直に言うと、これ滅茶苦茶よく出来た本。

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『創聖のアクエリオン コンプリート』が発売されたんだよ!」
「急に宣伝するなよ!」
「人生は短いんだよ!」
「だからって、お前が宣伝するなよ!」
「俺だって巻頭スゴロクとかで協力してるんだよ!」
「お前ひとりで本が出来るのかよ!」
「優しい編集さんや、優しいデザイナーさんのおかげだよ!」
「お前は優しくないのかよ!」
「優しいのは読者だよ! 税抜き2,381円なんだよ!」
「税込みで言えよ! 税込み2,500円で絶賛発売中なんだよ!」

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2005年11月17日 (木)

「木々」

 その家は繁茂した樹木の奧にあり、薄暗い中にコンクリートの壁が陰鬱に見え始めると、私はいつも見知らぬ誰かの庭に入り込んだ様な罪悪感に近い気持ちに陥るのだった。

 その日は、彼の恋人を私の仕事仲間のパーティーに連れていった帰りだったので、いつもに増して罪に似た気持ちを感じながら門をくぐった。彼女は常に私に寄り添い、

「インテリですよね、彼は」

などと快活に私の仲間に話しかけ、

「こんな感じでいい?」

と目で確かめてくる。もちろん、列席した誰もが彼女のことを私の恋人だと信じ込んだだろう。私は目上の編集者に適当な挨拶をすると、

「これから、彼女と約束がありまして」

と早口に言いつくろって、パーティーの場を辞した。もともと来場したくもなかったのだ。その言い訳のために、友人の恋人を拝借したのであった。

 私の恋人役を演じてくれた彼女を友人に返すために、こうして鬱蒼とした木々をくぐっている。こうした罪悪感は、しかし気持ちの悪いものではなかった。彼女は知らない人々と言葉を交わして高揚しているらしく、帰りの車中でも喋りっぱなしだった。

 「最近、あなたの記事ばかりでしょう? この人、雑誌であなたの名前を見るたび、オエッなんて言うの」
彼女は、私に笑いかけた。友人は、その会話を無視していた。

「何がオエッ、なんだよ?」
私は日の落ちかけた窓際で沈黙している友人に問いかけた。私が彼女を連れ出したのが気に入らないのだろうか。

「君の恋人なら、こうして返しに来たじゃないか」

「次に借りるときは、断らなくていい」
彼は怒っている風でもなかった。その朴訥とした言葉には、むしろ不思議な親しみが感じられた。

 ともあれ、彼は何か用事でもあるらしく、どこかに出掛けてしまった。彼が居なくなると、さっきまで数人の人間が思い思いに話していた部屋が、急に深閑と静まった。そんな錯覚を起こさせるほど、彼の家には常に何人かが出入りしているのだった。彼の弟、そのバンドの仲間たち。どこで知り合ったのかファッションデザイナーの卵、以前に働いていたプロダクションの先輩、などなど。彼も彼女も社交的で、誰とでも平等に言葉を交わす……

 ランプシェードが、プリンの様なクリーム色の光をぼうっと灯している。酔ってでもいるかのようにご機嫌な彼女は、何か食べるものを買ってくると言って、車で出ていってしまった。私は、この広い家で留守番をする羽目になった。

 危惧した通り、しばらくすると彼女から電話があった。道に迷ってしまったので、もう少し待っていて欲しいという。慌てていても陽気な彼女の声を聞いて笑いが出た。

「ゆっくり帰ってきなよ」
私はそう答えた。

 私は、すっかり闇に沈んだコンクリートの家を出ると、門の前に座って彼女の帰りを待つことにした。彼女が買ってくるであろう外国製のチーズやクラッカーの銘柄を頭に思い浮かべながら。

 この家の隣は鉄柵に囲まれた教会だと私は知っている。四方から虫の声が聞こえている。少し眠い。携帯電話はポケットに入れてある。もし眠ってしまっても、彼女からの電話が起こしてくれる。座ったまま振り返ると、陰鬱な林の奧にコンクリートの壁が微かに見えた。


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この夢に出てくる友人は、実は先日の日記に出てきたメグロくんだ。
こんな風に、僕は彼と彼女の暮らしの一番外側に触れていたような気がする。
(もちろん、ディテールは粉飾してあるし実体験ではない)
この文章を読み返してみると、ドラマの始まる一歩手前でプツン、と途切れる雰囲気が自分は好きなのだと思う。

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2005年11月15日 (火)

■all all all all right!!■

 粘土は基本。
 手を動かさないと何一つ形にならないところがいい。何より、作りつづけるモチベーションが、作り上げられつつある造形物それ自身であるところが素晴らしい。良い形が出来れば先を進める気になり、気に入らなければ手は止まる。だから、果てしなく良い形を追い続け、そのことによって自分を奮い立たせねば粘土造形は完成しない。それ以外に、粘土をこねる理由はない。
 モチベーションそのものを自ら作り出す。だから、粘土は基本なのだ。

 手にべとつかない良質の粘土であれば、そのままキーボードを打つことが出来る。ようするに、粘土細工しながら原稿が書けてしまうのだ。打っては練り、盛っては打つ。眠る前に盛っておけば、翌朝には乾いている。粘土は人生に溶け込む。
 おそらく、達人ともなれば脳の中に粘土を持っているのであろう。そう、真の達人は悩まない。悩むかわりに頭の中で粘土をこねているのに違いない。理想の自分、理想の人生、理想の今を造形し、生み出したモチベーションで自分をよりよく生かすのに違いない。
 だから、人生は芸術的なのだ。だから、自分の手で作り上げねばならないのだ。

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■Go my way on the rack■

 ロケ地からの帰り、メグロくんと待ち合わせて中野の韓国居酒屋にて飲酒した。

廣田「この、マッコリというものは何か?」

メグロ「にごり酒だ。なかなか口当たりがよく、舌の上でマッコリと蕩ける」

 廣田「駄洒落か」

メグロ「駄洒落だ」

 廣田「うむ、マッコリもよいが、その前にやはり中ジョッキだ」

メグロ「付き合おう」

 廣田「二日酔い対策には、やはりしじみだな。しじみの炒め物だ」

メグロ「しじみもいいいが、チヂミはどうか」

 廣田「チヂミはプレーンでいこう」

メグロ「やはりチヂミはプレーンか」

 廣田「プレーンだ」

 かくのごとき次第で、酒席は始まった。

メグロ「酔ったな」

 廣田「酔ったか」

メグロ「お前の仕事で俺が感心するのは」

 廣田「俺の仕事でお前が感心するのは」

メグロ「にわか仕込みの知識で書いた文を、いけしゃあしゃあと雑誌に書けるところだ」

 廣田「にわか仕込みというと、付け焼刃で出鱈目な」

メグロ「あつかましくも、ずうずうしい」

 廣田「ずうずうしくも、恥知らず」

メグロ「そうした文章を書けるお前という男は」

 廣田「俺という男は」

メグロ「……わりぃ、ちょっとトイレ行ってくる」

 メグロくんの椅子の背もたれに、趣味のいいシャツがかかっている。彼のシャツからは、いつでも自由の香りが立ち上っている。俺は、そんなメグロくんのシャツが昔からまぶしくて仕方がないのだが。

 ブロードウェイの本屋でイーガンの『祈りの海』を買った。年に一度はSFだ!

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2005年11月13日 (日)

「祭りの日」

 三日続いた祭りの最終日であった。徒歩で十分ばかりの友人の家に遊びに行った。ゲームをしたりビデオを見たり無為な時間つぶしにも飽きた頃、友人の妻子のご帰宅となった。彼の娘は、紺色の腹掛をつけていた。子供神輿でもかついできたのだろう。

 家族が簡単な身支度を整えると、我々は祭りの最後の出し物である山車見物に出掛けた。

 沿道に立つ我々の目の前に一台の山車が止まったが、その山車は笛を吹くのも太鼓を叩くのも、おしなべて十歳以下の少女であった。学友を見つけたのか、太鼓のばちを振り振り沿道に人なっこい笑顔を向ける子がいる。一心不乱に太鼓を叩きながら、時たまちらりと視線を観客の方へ流す子がいる。大勢の人を前にして羞恥が生じたのか、それとも矜持か。いずれにしても、まるで余裕のない表情が彼女の心中に想像を向かわせた。

 しかし、特別に私の目を引いたのは、楽屋から上半身を伸ばし、舞台に散らばった紙吹雪を床に這いつくばって拾い集める少女だった。その作業が、どれほどの重要さを持つのかは分からない。ただ、彼女は一旦は楽屋に引っ込みながら、また小さな手を伸ばして細かな紙切れを周到にかき寄せるのであった。演奏の邪魔になるまいとする、その手つきの慎重さ、眼差しの神妙さが彼女の性格を曇りなく伝えているように思えた。

 私はそんな彼女の行いを友人に教えようとしたが、口がぱくぱくするだけで言葉にならなかった。

 間もなく、友人の家族と別れた。友人の娘が母親の背中から私に残した「バイバイ」は、妙に彼女が大人になった姿を連想させる響きを含んでいた。

 一人になり、再びあの少女の山車を瞥見すると、紙片を集めていた少女は路上で知り合いと――それが大人であったか同級生であったのか判然としなかったが――二言三言、会話を交わすと微かな笑みを残して足早に山車の裏側にまわり、据え付けの梯子をトントンと慣れた様子で登って楽屋に消えた。

 私は終焉の近づいた祭りの雑踏を散策した。

道なりに家の方に歩くと、またあの山車に出逢った。舞台の上は、年上の姉様方に交代していたが、歩道に緊張した一瞥を投げかけた少女だけが、まだ熱心に太鼓を叩いていた。彼女の顔は山車の支柱に遮られ、よくは見えなかった。

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今から日活映画『三徳和尚とその弟子たち』のロケ取材。ちょっとした小旅行である。
昨夜見た映画は『陰陽師Ⅱ』。感想はまた機会があれば。

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2005年11月12日 (土)

「自転車」

 そのデザイン事務所は、地下鉄の出口を上がってすぐの場所にあった。地形の関係から坂道にめり込んだような、半地下の薄暗い空間だった。坂道を下ると、分室がある。私たちは、その分室と半地下の事務所とを行ったり来たりしつつ仕事をしていた。雨の日に坂道を往復するのは難儀だった。
 長い髪を左右に束ねた彼女は、少女じみた外見とは裏腹に、誰に対しても素っ気ない態度を通していた。その会社は小さな割に忙しく、彼女とはすれ違ってばかりで、話す機会は滅多になかった。

 ある日、彼女と帰りの駅で出くわした。二線の地下鉄が乗り入れている駅で、私は彼女と少ない言葉を交わした。「無理に送ってくれなくても、貴方、反対方向でしょ?」 確かにそうではあったが、彼女が乗り換える一駅までの間、一緒に地下鉄に乗った事が一度だけあった。彼女は帰宅ラッシュをぼやいたり、ありきたりな事しか話さなかった。ただ、別れ際に「送ってくれて、ありがとう」とだけ言った。もとより送ったつもりなどなかったので、ずいぶん意外に感じたのを覚えている。
  しばらくして、彼女は会社を辞めると聞いた。もっとも、そのデザイン事務所は辞めたアルバイトをすぐに雇う事でも有名で、彼女自身「どうせ、すぐに戻る」と周囲に触れ回っていた様だった。
 いつの間にか、彼女は来なくなっていた。私は、薄暗い半地下で仕事を続けていた。だが、それも長くは続かなかった。副業と思っていた文筆業がにわかに忙しくなり、アルバイトを続ける事が出来なくなったのである。彼女と再会できないまま、私は事務所を辞めた。そして、二度と戻らなかった。

 取材の日、たまたま例の駅で降りる機会があった。私はスーツを着ていたので、偶然に出くわした知り合いたちは就職したと思ったのだろう、露骨に冷やかしはじめた。私は彼らを無視して、懐かしい駅前に降りた。
 そして、取材先に向かうため、初めて坂道を下るバスに乗った(それまで、駅前にバス停がある事すら知らなかった)。 
 車内から、私は長い髪をなびかせて坂道を上ってくる自転車姿の彼女を見た。私と入れ替わるように職場に復帰したのであろう。あの事務所と分室との往復には、確かに自転車は有用な気がした。レモン・イエローのワンピースに白い靴下が、相も変わらず少女じみていて、私は思わず苦笑した。

 バスは坂を下ると、左側の道をゆっくりと曲がっていった。

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今日から、少しずつ趣味で書いた文章をUPしていく。
実体験ではなく、あくまで創作で、小説というには短すぎる散文ではあるが、数年間もハードディスクの奥に残しておいたものを外気に触れさせることで、自分の毒気を抜くことも出来るような気がしている。

カテゴリーを「創作」としたので、従来のメガ日記読者は無視していただいて構わない。

今の僕のテーマは、「壊し、乗り越えることで、新たにつくっていく」ことだ。
いずれ、ちゃんとした小説の連載も予定している。

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2005年11月10日 (木)

■O・K,パ・ド・ドゥ■

 生まれて初めて書いたラブレターの返事は、中学校の廊下でじかに本人から聞かされた。「意味が分からない」とのことだった。駅前の文具店でクラシックカーのイラストがプリントされた便箋を買ってくると、俺は気持ちも新たに思いをしたためた。果たして、今度はどうか? ちゃんと返事は来た。
 この経験から学べることは、文章はキャッチボールをしながら書いた方が相手に伝わりやすい、ということだ(俺が初めて惚れた相手は、優れた編集者であったと言えるだろう。それ以上の仲にはなれなかったが、とにかく「気持ちを伝える」という大事な仕事を助けてくれたのだから、それはいい恋愛だったに違いない)。
 アニメ評論家のF津さんと共同でひとつの記事をつくってみたが、これぞ発見の連続。「おーっ、句読点ってこう打つのか!」「えっ、この人文中に(照)なんて使うんだ! か・かわいいっ!」
 いいラブレターを書きたくば相手と共同で書け。君の書いた言葉を彼女は呼吸し、彼女の“直し”は君の弱点を指摘してくれる。君の痛みは、やがて彼女の痛みとなる。相手の字をなぞれ! そのとき、君たち二人は同じ神を見ている。同じ神に宛てて、一通のラブレターを書いている。
 彼女に向けて書いていたはずのラブレターは、いつしか彼女から君へのラブレターとなり、たどたどしく動いていた鉛筆はいつしか音速を超える。ラブレターはただのラブレターであることをやめ、君はただの君であることをやめる。
 結局、自分を越えるには他人の手を借りるほかないのだ。

 F津さんとの共同記事は、来月発売のグレートメカニック誌にて。

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2005年11月 8日 (火)

■NO FUTURES GO■

 岡野玲子『陰陽師』3巻に掲載された二つのエピソードの終わり近くに、麻とけしが出てくる。「最後はちょっとラリって仕上げるのさ」と安倍清明(仕上げる、とはもちろん呪術のこと)。それから千年、麻もけしも栽培はもちろん、所持しているだけで逮捕される。日本国内では。何億、何十億年つづいてきた植物界では、話題にも上らないささいな変化、退化だ。
 高野史緒の小説『ムジカ・マキーナ』には、絶対的快楽をもたらす至高音楽が登場する。聞いただけで逮捕されるほど人心をとらえる音楽ならば、ぜひ聞いてみたい。聞かなくてはならない。打ち砕かなくてはならない。
 
慣らされた心、飼われた心を解き放つには、あらゆる手段が許されている。許されねばならない。音楽も、文学も、映画も、そのためにある。だから、時として、いやしょっちゅうタブーに触れているのだ。
 表現物に触れるものは、禁忌に触れているのだ。それを忘れてはならない。見る者、読む者、聞く者は常に危険と隣り合わせている。なので、「こんなものを見せるな」と弱音を吐くぐらいなら、最初から目を閉じているべきなのだ。最後まで目を開いているものだけが、本当に解放される。「タブーを犯す表現物」の話をしているんじゃない。表現物というのは、タブーを犯すものなんだ。タブーを犯すからこそ、表現物でいられるんだ。
 なにかが「心に触れる」とき、ことごとく僕らは
危険地帯に立っている。たとえ、町の中のCDショップであろうと! 感動は地雷原でしか起こらない。だから、感動を求める人生は地雷原を踏破していく。
 そんな人生以外は、欲しくない!

 仕事を夕方近くに終えると、待ちかねたように熱が襲ってきた。ベッドに横になりながら、週末に録った番組を何本か見る。『蟲師』、やはり侮れず。デンゼル・ワシントンの『マーシャル・ロー』も面白かった。鼻血を出しながら演説するシーンが最高にカッコいい。

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2005年11月 4日 (金)

■ジョークのつもりが、ほんとに降りれない■

 微熱に抗いながら、区役所へ行く。必要な書類が届いていない。だが、これはほんの小さな戦いだ。僕は腹を立てるのをやめ、静かに然るべき相手に連絡をとった。

 それから、そっと東北線に乗り込むと、横浜へ向かった。東急ハンズ、ヨドバシカメラ。この10年間、僕の手元から離れていたものたちを、僕は引き戻すことにしたのだ。スパチュラに始まり、粘土、真鍮線、耐水ペーパー。ファンドが売っていなかったのはショックだったが、とりあえず品質の近そうな粘土を買って帰った。趣味として考えると、なんとまぁ粘土細工は金のかからないささやかな趣味なのだろう。尤も、今回は多少は仕事がからんでいる(仕事になればよい)というところだが……
 いや、正確には違う。
 「こういうのは、立体にした方がいいですよ」と放言する自分に飽き飽きしたのだ。僕には粘土をこねるという武器があったはずなのに、いつの間にか自分の人生を生きることをやめてしまっていた……それらの道具を買ってしまうと、少しだけ足取りが軽くなった気がした。

 帰宅すると、座っているのも辛いほどの熱が襲ってきた。僕は風邪薬をリポビタンDで喉の奥へ流し込む。
 この2~3日、いろんな映画や漫画の場面が頭をよぎる。命綱とも言うべき新一から分離して、後藤を倒したミギー、カッコよかったなぁ……「勝つ」以外の目的を持たない戦い。肉を切らせて骨を断つ、というやつ。何より、それが本物の人生だという気がする。

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